※遊女と神威 軽い裏表現あり


彼はうさぎというよりはネコのようだと思う。寂しくて死ぬ、なんてそんな感情とても持ち合わせているようには思えない。気まぐれにここを訪れて、気まぐれにここを去っていく。

「今回は長いね」
「何が?」
「今日で3日目よ。神威がこんなに吉原にいるなんて珍しいじゃない」
「そうだっけ?」

ぽりぽりと頭をかくこの男の顔にはいつも通り貼り付けられたような笑みが浮かんでいる。いつもは編んである髪は解かれ、乱れた服、むせ返るような濃い匂いはさっきまでここで起こっていたことを物語っている。ここはそういう場所だ。

「何か嫌なことでも?」
「んー、どうだろうね」

これ以上踏み込んでくるな、と暗に言われているのだろう。何があったのかを神威がはっきりと答えることはなかった。

神威がここを訪れるようになったのはいつ頃からだろう。確か、鳳仙と共に訪れた時がわたしと彼の初めての出会いだった。わたしの何を気に入ったのかは分からないが、それ以降気まぐれにここを訪れてはわたしを抱いていく。
随分昔、底なしにお酒に強い神威が1度だけ酔ったことがある。そのとき、家族を置いてきたという故郷の話をしてくれた。途切れ途切れに話すので、何を言っているのかはよく分からなかったけれど。いつもの飄々とした態度からは想像もつかない弱々しい姿で語る姿を見て、神威という男が分からなくなった。一体どちらが本当の神威なんだろう。神威のそんな姿を見たのは後にも先にもその一回だけだったので、今となってはあれはわたしが作り出した幻だったのではないかとも思う。


「そういえば、前に神威と同じ夜兎の女の子と会ったよ」
「……」
「ここの解放に助力してくれた子でね、神威にもよく似た子だっ」

話している最中だと言うのに、神威に言葉ごと口を塞がれた。噛み付かれたという方が正しいかもしれない。口の中に鉄の味が広がる。

「神威、痛い」
「本当に名前はひ弱だよね。ついでだしもう一発やっとこうかな」
「なんのついでよ」

わたしの声はもう聞こえていないのだろう。乱暴にわたしの体を触る神威の姿はどこか昔見た姿に重なった気がした。もしかしたら、これが神威の本当の姿なのかもしれない。

前言撤回。神威は本当は寂しくて寂しくて死んでしまいそうなのかもしれない。けれど、その寂しさはわたしには埋められない。



170521