ずっと死ぬ時はあの人のためと決めていた。どうしようもないクソガキだった俺をここまで連れてきてくれたあの人には感謝しかない(きっとあの人にとっちゃ今でもクソガキなんだろうけど)。どれだけ変態で、ストーカーで、情けなく見える時があっても俺らの大将は永遠にあの人以外はあり得ない。




「傷だらけじゃないの」

そう言って彼女は机の上においてあった花瓶の中に花を差した。どうせなら花なんかじゃなくて食えるものを持ってきて欲しかった。名前はそういうところがあと一歩惜しい。

「無茶はやめてって言ってるのに」
「別段無茶なことなんざしてねェよ。周りが大袈裟なだけでィ」
「全身包帯ぐるぐる巻きでよくそんなことが言えるね」
「こんなもん見た目ほどひどくないでさァ」
「嘘ばっかり。土方さんに聞いたんだからね。すんでのところで危なかったって」

にやにやしたむかつく顔をしながら彼女はベッドの脇においてあるイスに座った。土方コノヤローいい加減なこと言いやがって。とにかく退院したら一番最初に殺す。細胞ひとつ残さず殺す。

「生きててよかった」

おれの腕にぐるぐる巻きにされている包帯に触れながら彼女は呟いた。長いまつげの間から覗く瞳は少し水気をはらんでいるような気がする。

「ねえ、総悟。わたし、あなたには生きていて欲しいの」

怖いの。いつか急にいなくなりそうで。
そう言った彼女の目からは大粒の涙。そうだ、おれも置いて行かれるつらさを知っているじゃないか。

「置いていかないで」

ついには声をだして泣き出した彼女の頭に包帯でぐるぐる巻きになった手を添えて、そっと自分に引き寄せた。


ずっと死ぬ時はあの人のためと決めていた。けれど、命がある限りは彼女のために精いっぱい生きてやろうじゃないか。


そんな誓いをたてたことを
君は知らないだろうけど。




130910