きっと神威という男は人の愛し方を忘れてしまったんだと思う。


なんでこんなところにいるのかは忘れてしまったけれど、気づいた時には神威のとなりにいた。
わたしは地球でいうところの天人と呼ばれる生き物で、はっきりと自分の出自については知らないけれど、神威によれば今は絶滅の危機にある戦闘に長けた種族の出身らしい。そんなわけだから、女だてらに先陣切って戦には出たし、それはもうそんじょそこらの兵士じゃ叶わないくらいの強さを持っていた。
戦うことは好きでも嫌いでもなかったけれど、神威が臨むから、わたしも戦う。ただ、それだけの理由だった。

神威のとなりで働くことになんの違和感も持っていなかったし、彼の役に立てているのだと思ったら嬉しかった。わたしは彼を愛していた。どうしようもないくらいに神威という男を愛していた。
彼がわたしをとなりに置くのも、わたしを特別に思ってくれているからだ、と小さな夢を見るようになったのはいつの頃からだっただろうか。




「ねえ、いつか聞いてきたことがあるだろう」
「何を?」
「お前の故郷のことだヨ」
「滅んだって聞いたけど」
「そう。俺がやったんだ」

へえ。そうなんだ
見慣れた笑顔でわたしに話してくる神威に対して、それだけしか言葉は出て来なかった。

「あり?それだけ?」

つまんないの。
そう言った彼をとなりで見つめる。気づいた時には神威のとなりにいたのだから、故郷のことなんか微塵も覚えていない。だから、本当に興味もわかないし、何も思わなかった。

「故郷のことを言ったらお前と本気で戦えると思ったのに。残念だヨ」

またお前と戦う別の理由を探しておこう。それが見つかるまでは俺のとなりで強くなり続けてくれよ
普段は笑みの中に閉ざされている神威の青色の瞳が見えた。深い深い色をしているそれに吸い込まれそうになりながらわたしは悟るのだ。いつからかわたしが夢見ていたことなど、本当にただの夢でしかなかったのだと。理由とやらが見つかってしまえば、わたしは神威と戦って彼に殺されてしまうのだろう。


それでもわたしは今日も彼のとなりで、彼と同様に戦い続けるのだ。いつか、彼に愛されることを夢見ながら。

130813