夏は嫌いだ。
暑いし、焼けるし、毎年体調を崩すから。

夏は嫌いだ。
いとも簡単にわたしから彼を奪っていってしまうから。



「試合見にこねーの?」
「・・・・・・うん」

しかめっ面した慎吾にフェンス越しに睨まれた。不機嫌になるのも無理はない。てか、不機嫌にならない方がどうかしてる。

「なんで。なんか用事あんの」
「別にない、けど」
「じゃあなんで来ねーんだよ」

慎吾のごもっともな質問にわたしはただ唇を噛むことしか出来ない。だって、見たくないんだもん。グラウンドの上でいきいきとしてるあなたなんて。わたしが知らないあなたなんて。

「・・・だって1回戦無名の新設校なんでしょ?桐青が負けるわけないじゃん」

目の前にいる慎吾の視線に耐えられなくなって口から出てきたのは全くの出任せだった。けれど、彼は少し不満げではあるものの納得したらしかった。ああ、なんであんなこと言っちゃったんだろう。あんなこと言ったら2回戦からは行かなきゃいけなくなるのに。
けれど、そんなわたしの心配も杞憂に終わってしまった。



友だちからのメールで桐青が負けたことを知って慌てて球場に向かった。今さらなにを彼に言えば良いのかは分からなかったけどとにかく彼の側に行かなきゃいけない、そう思ったのだ。
球場に着いた時、見慣れた背中を見つけた。

「慎吾!」

くるりと振り返った彼の目は真っ赤で何があったかを語っていた。

「なんだ、お前結局見に来てたのか」
「・・・・・・しん」
「カッコ悪ィとこ見られちまったなぁ」

ごめんな、甲子園行けなかったよ。
少し自重気味にいう慎吾に思いっきり飛びついた。甲子園なんかどうでも良かった。ただ、彼には夏の間だけはずっとずっとグラウンドの上で生き生きとして欲しかった。わたしの知らない人でいて欲しかった。


夏は嫌いだ。
いとも簡単にわたしから彼を奪っていくくせに、気紛れにそれを止めてしまうから。

どうせなら、最後まで彼を連れて行って欲しかった。

090618