わたしの日常に彼がいない日なんて、考えることが出来ただろうか。

例えば、グラウンド横を通った時に見る野球に打ち込む姿だったり、頬杖つきながらかけてくれるオハヨウの声だったり、授業中の真剣な顔だったり(見てるのはきっと教科書じゃなくて野球のスコア)。彼でわたしの毎日は構築されている。




「あれ?今日御幸休み?」
「公欠だって。野球部、試合。」


ああ、そういえばそんなこと言ってたなあ。
昨日の授業中の御幸との会話をぼんやりと思い出す。半分意識が飛んでたからほとんど御幸の独り言状態だったんだけど。当たり前だが、いつも御幸とつるんでいる倉持の姿も今日はない。

わたしの隣に置いてある持ち主のいない机と椅子がなんだか寂しそうに見えた。ああ、御幸がいなかったら暇だなあ。授業なんか聞くよりも御幸をこっそり眺めている方がずっと楽しい。考え事をする時のペンを回す癖とか、普段からは想像つかないぐらい子どもっぽい寝顔とか、新しい発見を掘り出していくのがわたしには何ごとにも変えがたい楽しみなのだ。
でも、今日はその姿が見えない。とても暇だ。手持ちぶさたから、なんとなく机の下で携帯を開くとそこにはメール受信1件の文字。
どうせメルマガか何かだろう、そう思って携帯を開くとそこには今まさに自分の頭の中に渦巻いていた人物の名が表示されていた。御幸だ。



20XX/07/06 14:18
From:御幸 一也
Sub :勝った
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オレのタイムリーが
決勝打

   - END -


とりあえず良い報せなことにほっと胸をなで下ろす。野球に詳しいわけではないし、さして興味もないけれど彼らにとってそれが大切なものであることぐらいは分かる。純粋に嬉しかった。
なんと返信しようか考えていると携帯が震えた。画面には再び御幸一也の文字。


20XX/07/06 14:35
From:御幸 一也
Sub :
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オレが決勝打
打ったんだから
昨日の約束守れよ

   - END -


約束?なんだっけ?昨日?授業中に今日の試合のこと話した時かな。わたし、あれ半分寝てたから何話したか覚えてないんだよね。


――――約束ってなんだっけ?
文面にそこまで打ち込んだ時、再び携帯が震えた。見なくても分かる。やっぱり御幸からだ。
何度も何度もメールを送ってくる御幸に多少の違和感を感じつつも受信メールを開く。
そこに並んでいた文字に授業中だったことも忘れて、声に出して叫んでしまった。先生に咎められたけど今はそんなこと構ってられない。


電話したい。早く授業終われ。1分1秒がすごく長く感じる。
さっきまで退屈だった1日がとんでもなく嬉しい日になった。





20XX/07/06 14:38  
From:御幸 一也  
Sub :       
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オレと付き合って  


- END -


090606