照りつける太陽と湿度の高い空気にくらくらする。目の前にいるこの人の姿にも。マネージャーの仕事をしながらちらちらと目線は俺の横を通りすぎてコートに向けられる。いつからだろう。この人のことが気になって仕方なくなったのは。この曲者揃いのテニス部のマネージャーを一生懸命頑張ってこなしている姿、休憩中に皆で馬鹿話をしてる姿、あまり人付き合いが得意ではない俺を気にかけて明るく積極的に声をかけてくれる姿。先輩の全てが気になって仕方がない。だから先輩の中にある気持ちにも気がついてしまった。


「名字先輩、聞いてますか。」

「あぁごめん。なんだっけ。」

「向日先輩が怪我をしたので、絆創膏貰えますか。」

「そうだった、絆創膏ね。でも絆創膏だけで大丈夫なの?」

「大丈夫です。肘をちょっと擦りむいただけですから。」


先輩から絆創膏を受け取りコートに戻る。俺が話している途中先輩が上の空だった理由なんてすぐにわかる。一番奥のコートで練習中の跡部さんが足を滑らせたから。先輩のことを目で追うようになって気付いた。先輩の目線の先にはいつも跡部さんがいることに。初めは認めなくて俺が立てた最悪な仮説を否定出来るような材料を探したが、探せば探すほど、この仮説は仮説じゃなくなっていった。やっぱり先輩の心の中にはいつも跡部さんがいる。でも跡部さんの心の中には先輩じゃない別の人がいる。みんな知っている。もちろん先輩も。


「跡部。大丈夫か?」

「ああ。大丈夫だ。練習続けるぞ。」


先輩の安心した顔がみて胸がチクっと痛む。別に跡部さんが怪我をすればいいとかそういうことは思っていない。


恐らく跡部さんのことだから先輩の気持ちには気付いているだろう、その上で知らないふりをして接しているのだ。それが跡部さんの優しさなんだろうけど俺はその優しさに望みは薄いと分かっていながらも一喜一憂している先輩を見ていると切なくてもどかしくて仕方ないのだ。跡部さんを見つめているその瞳がいつか俺に向けられるのをただひたすら待つしかない。もし跡部さんが俺の立場だったら、あいつは諦めて俺のものになれだとかキザな台詞を吐いて先輩を奪いに行くんだろうけど、俺にはそんなこと怖くて到底出来そうにない。無理やり進めたところで結果は目に見えてる。だから尚更歯痒いのだ。時々思うが先輩を見ているとそのまま俺を見ているようだと。相手が自分じゃない人を好きだと知りながら好きだなんて、状況としてはまるで同じだ。だからこそ切なくてもどかしくて最高に愛しいのだ。先輩も、俺自身も。





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