あたしは日吉という男について考えてみた。

日吉は完全にあたしを見下している。
日吉は普段から周りとのコミュニケーションをあまり取らない。だから誰に対しても冷たい態度をとっているように見えるが実は違う。武道の精神を心得ているから、先輩を敬う気持ちは持っている。たとえレギュラー陣の先輩たちがアホな奴等でもちゃんと先輩として接している。しかしあたしにはその心が全く感じられない。それどころか後輩にだってそんな感じで接しないだろうという態度で接してくる。人とも思ってないみたいな。


恐らく日吉の中での先輩尊敬度ランキングは一位跡部、二位宍戸、三位ジロー、四位岳人、五位忍足だと思う。まず部長である跡部は一位だろう。もちろんテニスの実力から考えても間違いない。普段の偉そうな態度やらおかしな言動を加えてもだ。宍戸は日吉からしたら何の害もない男だから二位くらいだろう。あたしから見ても宍戸はTHE普通。三位のジローに関しては直接迷惑をかけられることはあまりないが一度だけジローが日吉のジャージに涎を付けたことがある。日吉はそれを今でも恨んでいる。そのマイナスで三位。岳人のことはただのうるさいガキだと思ってる節があるから四位。五位の忍足については気持ち悪い人と認識しているであろう。たまにあたしと忍足を同じような目で見てくることがある。頼むから忍足と一緒にしないでほしい。

あたしはというと他の部員を入れても間違いなく最下位であろう。後輩の長太郎、樺地にも負けている。長太郎も樺地も宍戸と同じ害の無い部類だし、樺地に関してはあの頭のおかしい跡部と常に一緒居られる精神力を持っているのでもしかしたら跡部の次くらいに入るかもしれない。あたしも樺地は尊敬してる。跡部と四六時中一緒なんて無理。死ぬ。そうだ、今度樺地にストレス発散グッズをプレゼントしよう。



ではなんでそもそもあたしは日吉にこうも見下されているのだろう。うーん。わからない。というか理由がわかってたらなんとかしてる。さすがに可愛い可愛い後輩にこういつまでも見下され続けるのは辛い、悲しい。あたしも日吉に尊敬されたい。日吉があたしを見下す理由理由…強いていうならあれかな?



それは日吉と初めて顔を合わせた日。

「マネージャーの名字名前です。よろしくね。」


「日吉若です。よろしくお願いします。」


「ひよしわかし……ご両親ラッパー?」


「…は?」



いやあのね。あたしだって本気でそう思ったわけじゃないよ。ただ名前の響きがどうも気になってさ。初対面だし部活初日だったからちょっと先輩として場を盛り上げようと思っただけだよ。結果盛り上がったし。


でも日吉はその時笑ってなかった。あとになって日吉がそういうノリとかを嫌うタイプだと知った。まぁその時も目付き悪くてあまり喋らなそうなやつだとは思ったけどさ。


やっぱりあれがいけなかったのかな。だとしたら今更だけど謝ったら許してくれるかな。謝ってみようかな。どうかな。えーい、考えててもしょうがない。日吉のあたしに対する評価が落ちきっててもうこれ以上落ちようもないから一か八か謝ってみよう。うん、そうしよう。



あたしは日吉に謝るために日吉のクラスに足を運んだ。


「ひよしー!ひよしひよしひよしー!」



「ちょっと!聞こえてますから何回も呼ばないでくださいよ。恥ずかしい。」

「ごめんごめん。」


「それで何の用事ですか。」

「う、うん。えっとねー。」


「何ですか早く言ってくださいよ。休憩終わりますよ。」


「じゃあ言うけどさ。あたし日吉のご両親がラッパーだなんて本当に思ってたわけじゃないよ。」


「…は?」


やばい。あの時と同じ目だ。


「ごめんね。つい名前の響きが気になって言っちゃったんだ。初対面だったのにびっくりしたよね。変なやつだと思ったよね。そのせいか日吉があたしのことちゃんと見てくれないっていうか接してくれないっていうか。あたしすごく寂しくて。あたしは日吉のこと好きなのに日吉は冷たいし。もうどうしたらいいかわかんなくなって。」


「…あ、あの。先輩。」


「はい?」


急に日吉に対する思いが溢れてきてついつい長々と喋ってしまった。喋ることに夢中になって日吉の顔を見ていなかった。声をかけられて視線を日吉に戻すと顔が真っ赤だった。


「え、日吉どうしたの熱でもあるの!?」


周りにいた生徒達があたしの告白ともとれる発言にざわざわしている。そして恐らく日吉もそう解釈したであろう。



「せ、先輩ちょっとこっち来てください!」


クラスの雰囲気に堪えられなくなったのか日吉はあたしの腕を掴んで教室を出た。そして誰もいない教室に入った。


「日吉どうしたの?」


「どうしたのじゃないですよ。何で人前であんなこと。」


そう言う日吉の顔はますます赤くなる一方で。


「ごめん。どうしても日吉に謝りたくて。」


「…謝る?」


「うん。日吉がいつもあたしに冷たいから理由考えてたら初めて会った日のことを思い出して。その時のあたしの言動がよくなかったんじゃないのかって思って。だから謝りに。」


「あなたはアホですか。まぁアホでしょうけど。そんなこと気にしてるわけないじゃないですか。」


「えっ違うの?じゃあなんでいつも冷たいの?見下した目で見てくるの?」


「別に見下してませんよ。」


「でも冷たい。」



「…それは認めますけど。」


「やっぱりそうなんじゃん。何で冷たいのよ。さすがのあたしも傷つくよ。」


あたしの傷つく発言を聞いて日吉はひどく申し訳なさそう顔になった。赤いのは変わらないけど。


「傷つけていたのならすみません。でもどう接していいのかわからなくなったんです。」


「それはあたしがアホだから?」


「違いますよ。わけわかんないこと言ってきて困ることは多々ありますが。」


この子さっきから否定しつつもあたしを貶してくる。


「あなたが気になるから。」



「気になる?」


日吉の言わんとしていることは何となくわかるがいまいち確信が持てない。だって今まであたしのこと 見下してると思ってたんだよ?


そして日吉は今まで見たことのない、真剣な目であたしを見た。



「つまり…先輩が好きなんです。」


そう言った日吉の顔はこれでもかってくらい真っ赤だった。


「ありがとう。」






この告白をきっかけにあたしたちは付き合うことになった。なんだかんだあたしも前から日吉が気になる存在だったのは間違いない。それが恋だと気付いてなかっただけ。だからあんなにも日吉の態度が気になって仕方がなかったのだろう。



この時のことを忍足に話したら。日吉は初めて会った日からあたしのことが好きだったらしい。一目惚れってやつ。でもあたしがラッパー発言しちゃったからそれからどう接していいかわからなくなって冷たい態度をとるようになっちゃったんだって。ということはやっぱり間違ってなかったよ。あたしのバカ。あの時の言動を後悔した。あれがなければ寂しい思いもせずに済んだし、もっと早く日吉と付き合えていたかもしれない。日々の言動には注意しなければいけないとあたしは学んだ。




20140905
うーん。書き始めた時はこんな話になる予定じゃなかったんだけど。まぁしょうがない。気が向いたら書き直します。そして日吉難しい。


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