日が短くなったこの季節の夜風は冷たくて、なるほど別れ話をした後はやっぱりこうなんだなと思う。侑士とは幼稚舎からの付き合いで中学まではお互い仲の良いただの友達だと思ってた。そして高校に入ってから何となくお互い意識しだして1年の夏過ぎ頃から付き合いだした。お互い所謂初カレ初カノ同士だった。あたしがそうなのはあれだけど、侑士もそうだったのは今でも不思議に思う。でもそれがとても嬉しかった。女は好きな男の最後の女になりたいとかなんとかって外国人の誰かが言ってたけど、好きな人の初めの女になれることはとても幸せなことだと思う。


「ここまででいいよ。送ってくれてありがとう。」
「あぁ。」
「荷物はまた取りに行くね。」
「わかった。」
「じゃあ、おやすみなさい。」
「おやすみ。」

 お互い自分の家路へと真っ直ぐ歩き出す。高校を卒業して大学へ進学しても関係は続いた。違う大学だったけど距離は近かったのでお互いの家を行き来してた。でも就職活動が始まってバイトやらなんやらもあって忙しくてなかなか会えなくなった。久々に 一緒にいれるって時でもなんだか前ほどしっくりこなくて、違和感ていうのかな?感じるようになって。これはあたしだけじゃなく侑士も多分そうで。お互い心の距離が離れていって。別に新しく好きな人ができたってわけではないんだけどね。なんか違うって思った。それでさっき二人で「そろそろ。」って話をして。昔は別れるってどっちかに好きな人ができたとか、浮気したとか、もう好きじゃなくなったとかが理由だと思ってたけどそれだけじゃないんだね。あたしは今この瞬間だって侑士のことが好きだし、侑士もさっきまだあたしのことが好きだって言ってた。好きだけど別れるって、昔のあたしにはわからないだろうな。


「寒っ…。」


 夜も深くなってきて更に風が冷たくなる。あたしにとって侑士は何もかもが初めての相手で、好きだと言われたのも強く抱き締めてくれたのもキスをしたのもそれ以上のことも、そして別れも。全て侑士が初めてだった。まだ何も考えず楽しくやってた頃はこのままいつか侑士と結婚するんだろうなって思ってたし。恋愛なんて本当どうなるかわからない。出会ってすぐ結婚するカップルもいるし、何年も付き合って結局別れちゃうカップルだっているし。恋愛なんてふわふわしたものに振り回されて、いらないななんて思うこともあるこどやっぱり必要で。これから先、こんなことはあと何回あるんだろう。何回あったとしてもやっぱり今日のこと、侑士と過ごした日々は特別なんだろうな。


「名前!」
「侑士?」

振り替えると走って来たのか息を荒くした侑士がいた。

「どうしたの?」
「言い忘れたことがあってな。」
「何?」
「…名前と一緒におれて楽しかった。これから先も名前は俺にとって特別な存在や。だからありがとな。幸せになるんやで。」
「……うん。あたしにとっても侑士は特別な存在だよ。何があっても。だから侑士も幸せになってね。」
「あぁ。…じゃあな。」
「うん。バイバイ。」


 またお互い家路へと歩き出す。振り返りはしない。頬を撫でる風がより冷たくなった。視界が滲む。


「やっぱり泣くんだな。」


そう一言呟いて誰もいない真っ暗な部屋へと入った。






20141107
こういうのも失恋って言うのかな。

title:さよならシャンソン

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