目の前にいるこの女は自分の事が全くわかっていない。真実を教えてやりたいがそれを言うことによって俺の気持ちもバレてしまいそうなので黙っている。
「はぁ…彼氏欲しい。」
「またそれかよ。」
「だって本気で欲しいんだもん。」
そうこいつ、名字名前。何かとあればこんなことを呟いている。人の気も知らねぇで。
「ねぇ、宍戸の周りにあたしのこと好きとかいいとか言ってる人いる?いないよね?いたら逆に聞きたいわ。なんで?って。」
「なんでとは?」
「だって頭おかしいじゃんあたしのこと好きなんて。センスないよ。」
「お前言ってること矛盾してねぇか?」
だったら彼氏欲しいとか言うなよ。そもそもいるし。お前のこと好きとかいいとか言ってるやつ。たくさんいる。なのにこいつは全く気付いてない。自分がとてつもなく魅力的だということにも。
「そうなんだけど、気持ちと現実は別じゃん。あたしのこと好きな人はいないだろうけどあたしは彼氏が欲しい。」
「言ってることはわかるけどよ、お前のことが好きなやつはいないって決めつけるなよ。」
「だって実際いないでしょ?あたしだよ?やめた方がいいよ。ブスだし性格悪いし。付き合ったら絶対後悔するよ。」
はぁ…。どこまで自分のことを卑下したら気が済むんだよ。謙遜してんのか?だとしても己を下げすぎだろ。なんかもう腹が立ってきた。跡部みたいに自分の魅力を理解してて存分に出してきやがるのも腹立つけど、こいつのこれも俺を腹立たせるのには十分だ。
「名字はブスじゃねぇし、性格も悪くねぇだろ。」
敢えて直球な言葉は避けた。
「そんなことないよ。友達にあんたは残念だね、ってよく言われるもん。」
いやそれは恐らく、モテるから本気出したら彼氏なんて余裕で出来るのにって意味だろ。
「残念ってそういう意味じゃねぇだろ。」
「じゃあどういう意味?」
「お前は自分が見えてねぇってこと。」
「ん?」
ポカンとした顔で小首を傾げる。だからそういう顔とかヤバいんだって。可愛すぎるって。
「だから!魅力的だってこと。」
「はい?」
「もう鈍感も行き過ぎると罪だよな。」
「あたし鈍感じゃないし魅力なんかないし。」
「いい加減にしろよ。」
「いい加減って、さっきから宍戸の言ってることが全くわかんないんですけど。」
あぁもう限界だ。こんなの圧倒的に俺が不利だ。
「1回しか言わねぇからよく聞けよ!…お前は可愛い。もちろん性格だっていい。お前のこと本気で好きな男はたくさんいるし、…俺もその中の1人だ。」
「えっ…。」
名字の顔がみるみるうちに赤くなる。そして俺の顔も赤くなってるだろう。あぁもう本当に可愛い。
「す、好きというのはつまりその、女としてということで合ってますか?」
「…合ってる。」
「そ、そうですか。」
自分の気持ちを吐き出したら今まで押さえていたものが溢れてきて、ますます名字のことがいとおしくなってきた。恥ずかしさで小さくなっているその身体も、焦りでキョロキョロさせているその瞳も、次に発する言葉を考えて噛み締めているその唇も。全部、全部大好きで他の誰にも触らせたくないし、出来ることなら見せたくもない。
「だからもっと自信持てよ。俺にこんなに愛されてるんだから。」
20141030
名前ちゃんが多数人に好かれてると言わなきゃよかったと後に後悔する宍戸。
title:リラン
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