なんでこんなことになっているのか思い出せないほど些細なことで始まったこの言い争いは1時間経った今でもまだ終息の気配を見せない。端から見ればあたしがただギャンギャン騒いでいるようにしか見えないかもしれないがこれがあたしたちの喧嘩だ。いつもあたしが突っ
かかって好き放題文句を言いまくってさすがに我慢できなくなった侑士が言い返す。その言葉に腹を立てて10倍くらいの暴言をぶつける。それの繰り返し。いつも喧嘩が終わった後、自分の言動を振り替えって後悔する。もうさ、ただの駄々っ子じゃん。あたし。情けない。

「あたしのことバカにしてるよね?なんなの?嫌なら一緒に居なきゃいいじゃん。」

「はぁ…。鬱陶しいわ。」

「鬱陶しいって何よ!悪いのは侑士じゃん!」

「俺が何したって言うんや。わけわからんわ。」

「ならもういい。侑士のバカ!」

呆れる侑士に捨て台詞を吐いて部屋から出た。そしてトイレに逃げ込む。あたしもわけがわからない。なんでこんな言い争いをしているのか。心にも無い暴言を吐いて、言い返されたらもっと酷い言葉をぶつけて。何がしたいんだろう。侑士のことが好きで好きで堪らない筈なのに。多分好きで好きで堪らないから、大好きだから不安になってあれこれ言っちゃうんだよ。いずれにしてもよくない、駄目だ。バカはあたしだ。色々と考えてたら涙が出てきた。情けないな。ほんと。
それから10分くらいそのままで、やっと気持ちが落ち着いたので部屋に戻った。ドアを開けると侑士がこちらに目をやる。

「なんや、泣いてたんか。」

「泣いてないよ。泣くわけないじゃん。なんであたしが泣かなきゃいけないのよ。…ちょっとごめん。」

そのまま部屋を出てトイレに逃げ込む。また涙が溢れてきた。あたしは人に涙を見せるのがどうしても嫌だ。人前で泣くなという教育をされた記憶はないが今まで生きてきて、女の涙は武器だ。という話とか、泣いている女に甘くなる男を見たからか、そんな女を貶す言葉を聞いたからか。どうも他人に涙を見せるのは癪だ。泣いたらどうにかなると思っていると思われるのも嫌だ。それなのに侑士に泣いていたことを指摘されて、何か弱味をを握られた気がして恥ずかしくて情けなくてまた涙が溢れてきたから逃げるしかない。侑士は感情がわかりやすく顔に出るタイプじゃないからいつも自分だけが怒ったり悲しんだりしている気がして尚更感情を丸見えにするのが嫌なんだ。まぁ言い争ってる時はガンガン表に出ちゃってるけど。意地になってるだけかもしれないけどそれがあたしのプライドなんだ。だからそもそもどうこうなるから泣くんじゃないし、あたしだって出来ることなら泣きたくない。でも涙をコントロール出来るほど芸達者じゃないし強くもない。結局勝手に涙が溢れてくるんだからしょうがない。そうなったらあたしに出来ることはただ一つ。泣き顔を見せないようにその場から逃げるだけ。そして今もこうやって涙が止まるのを待って気持ちを落ち着かせる。
やっと気持ちが落ち着いたのでまた部屋に戻ろうとトイレのドアを開けた。

「うわっ!」

ドアを開けたらすぐ侑士の姿が目に飛び込んできた。驚いたあたしは何故かトイレのドアを閉めようとた。ただ侑士の手がそれを阻みそして反対の手であたしの腕を掴み自身の胸へと引き寄せた。そのまま両手でしっかり抱き締める。

「やっぱり泣いてたんやな。」

「泣いてないって。」

「音でわかる。」

「違うもん。」

聞かれてたなんて気付かなかった。いつからいたんだよ。一番恥ずかしいパターンじゃん。

「さっきは悪かった。ごめん。」

「…あたしもごめん。色々言い過ぎた。」

「今度から泣く時わざわざ部屋出てくの止めてな。外出てったと思って心配するわ。」

「だから泣いてないって。本人が言ってんだからそうなの。」

「わかったわかった。名前はええ子やから泣かんもんな。」

「バカにしてるだろ。」

おそらく侑士は全部わかっているだろう。吐き捨てた暴言の数々が本心じゃないことも、泣き顔を見せたくないあたしの気持ちも、侑士のことだから全部わかってる。その上であたしをからかっている。文句を言いたいが、今まで好き放題たくさん言ってしまったので快くからかわれてやろう。




20141015
人前で泣くのは私も嫌です。というか泣けない。変なフィルターがかかる。

title:英雄

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