──カシャッ
「ふふっ最高♪よしよしもう一枚…」
「名前先輩何してるんですか?」
「うわっ!?長太郎…い、いつからここに居たの?!」
「先輩が芥川さんのシャツのボタンに手をかけた辺りから。」
「ってそれほぼ最初からじゃない!?何で声かけてくれなかったのよ。」
「だって名前先輩すごく楽しそうだったから。」
長太郎に見られてはマズイ場面を押さえられてあたしはとても動揺している。今、目の前には気まずい顔をした長太郎とシャツのボタンが全て外され上半身が露になっているジローがいる。そしてこのボタンを外した犯人はあたしだ。
「先輩なんでこんな「聞かないで!」
「でも…「理由は聞かないで。」
「…はい。」
「あと、この事は絶対に誰にも言わないで。バレたらあたし大変なことになるから。命が危ないから。」
「わ、わかりました。」
ガチでバレたら命はない。これは本当。女子たちに殺されるし痴女のレッテルを貼られるだろう。そんなことになったらもうこの学園に通えなくなる。長太郎でさえもう完全に引いてるんだから。多分変態だと思われてるよ。まぁそうなんだけど。そうなんです。わけあり感出そうとしてますけど単純にジローの上半身裸の写真が欲しかっただけなんですよ。上半身裸で天使のような顔で寝てるジローを記憶だけじゃなく携帯のメモリーにしっかり焼き付けて未来永劫残したかったんですよ。毎夜毎夜それを見てニヤニヤしてやろうと画策していたんですよ三日前から。そして今日運良くそのチャンスが訪れたから行動に移したまでですよ。そしたら長太郎に見つかってしまった。クソッ!!!
「長太郎あたしのこと軽蔑してる?」
「し、してませんよ軽蔑だなんで。」
「そう?ならよかった。」
いやしてるね。絶対に軽蔑してる。どうしよう。何とかしなくちゃ。でないとこれから長太郎とどう接していいかわからない。あたしも辛いけど長太郎も辛いだろうし。
「せ、先輩。」
「なに?」
「お、俺の写真も…撮りますか?」
そう言って自らシャツのボタンを外しだした。えっ!?なに、なんで??!
「ど、どうしたの長太郎!?」
「いやその、これでチャラになるかな…なんて。」
チャラ?何がチャラ?長太郎は何も疚しいことなんて無いのに。も、もしかして先輩のガチでヤバい所を見てしまったことへの罪の償い?……って考えてみたけど意味わかんねぇよ長太郎!でもこれは長太郎からの歩み寄りだと受け取って進むか?よし進め!戻ったってどうせ長太郎の軽蔑の目は変わらない!
「じゃあ遠慮なく。」
「はい。」
──カシャッ
「……。」
─カシャッ、カシャッ
「………。」
なんだこの無言の撮影会は。端から見たらどんな光景なんだろう。ちなみにあたしたちの近くには上半身裸で気持ちよさそうに寝てるジローがいる。
──カシャッ、カシャッ
「…。」
なんだろう。
─カシャッ
なんかエロい。シャッター音しか聞こえないのが逆にエロい。やばい。変な気分だ。
「あ、ありがとう。もういいよ。」
「そうですか。」
「なんかごめんね。色々と。」
「いえ。大丈夫です。それにちょっと不思議な気持ちですし。」
「不思議な気持ち?」
「いけないことをしている感じがしてなんだかわくわくします。」
「そ、そう?」
「共犯というか、二人だけの秘密…みたいな。」
そう言って少し照れたように笑う長太郎。ん?あれ?やばい。なんか胸がキュンキュンする。もしかして落ちた?あたし、今この瞬間恋に落ちた?
「な、なに言ってんのよそんな恥ずかしいこと!」
「で、ですよね俺なに言ってるんでしょうね!ちょっと外出てきます!」
長太郎は慌てたように外に出ていく。その後ろ姿を見つめながら思う。こんな恋の始まり方もあるのかと。加えて友達にどうやって説明したらいいのかと。…いや出来ねぇよ!こんな話。あたしの失態を公になんて。恥さらしだわ!
20141101
吊り橋効果…とは違いますよね。
title:夜に融け出すキリン町
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