あたしは下駄箱の扉を開けて溜め息を一つこぼす。中には手紙が一通。差出人は確かめるまでもない。ここ一ヶ月毎日同じ封筒の手紙が入っているのだから。その内容は偉人たちが書いた回りくどくて難解な恋愛の詩の数々。今回も恐らくそうだろう。あたしはその手紙を鞄に入れてその場を後にする。向かう先はテニス部の部室。生憎中には目当ての人物しかいなかった。その人物に向かって声をあげる。

「あのさ。毎日毎日どういうつもり?」

そいつはあたしの顔を見るなりニヤリと笑う。なんとも憎たらしい顔だ。その綺麗な顔をぐちゃぐちゃにしてやりたい。

「何でこんな変な手紙を毎日寄越すのよ。」

「変なとは失礼じゃねぇか。先人たちが考えたいい詩だろ。」

「らしくないことされると気持ち悪いのよ。」

「でも逆に気になって仕方ねぇんだろ。」

「なっ、そんなことないわよ。」

いやそんなことはある。正直なんで跡部がこんなことをするのか気になって仕方がない。手紙の内容からしてあたしのことが好きなんだろう。これは自惚れじゃない。確信してる。

「うずうずしてるんじゃねぇのか。俺様に言ってほしいことがあるんだろう。じゃなきゃわざわざ会いに来ねぇよな。」

「別に言ってほしいことなんてないわよ。ただもう手紙を寄越すのやめてって言いに来ただけ。」

違う。そうじゃない。跡部の言う通り跡部のある言葉を欲してここに来た。でもさとられたくない。跡部なんかに。あたしのプライドが許さない。

「ならお望み通り手紙を書くのはやめてやるよ。これで用は済んだんだろ?じゃあ帰れよ。」

「っ…。」


あぁなるほどそういうことか。やられた。全部跡部の作戦だったんだ。あたしはようやく全てを理解した。そしてつくづく自分が嫌になる。この期に及んでも自分の中にあるくだらないプライドが邪魔をして自身の首を絞めている。頭に浮かんでいるこの言葉を素直に言えたらどれだけ楽になるのだろう。心の中の葛藤が顔に出ていたのか跡部があたしの顎に手を当てて言う。

「早く楽になっちまえよ。」

そしてそのまま唇を合わせてきた。逃げようと抵抗するが頭を押さえられて逃げられない。どうにも苦しくなって跡部の胸を叩くとやっと解放してくれた。顔を赤らめ肩で息をするあたしを見て跡部はまた憎たらしい笑みを浮かべる。


「言えよ。名前。」




「っ…跡部が、好き。」


「だろうな。」

跡部はとても満足げに笑い、再び唇を合わす。完敗だ。あたしからは絶対に言うまいと思っていたのに。やはり敵わない。最初から最後まであたしの性格を知り尽くしている跡部の作戦勝ちだ。もう煮るなり焼くなり好きにしてくれ。




20140913
やはり跡部は全てを見透かしている。

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