あたしの周りは敵だらけだ。それはあたしの付き合っている相手が超が付くほどの美形で秀才で、加えて生徒会長でありテニス部部長でありレギュラーであり、そもそもそれらの肩書きを除いても間違いなく人気者であろう男だから。そんな男を女子たちが放っておく筈もなく、あたしという彼女がいるにも関わらず日々狙いを定めて近づいてくる。その相手が彼だけでなくあたしにも及ぶのでどうにも参っている。

「はぁ…。」

「どうしたのよ。ため息ついちゃって。また跡部くん関係で何かあったの?」

「まぁね。」

「何があったの?」

「さっきトイレに行ったら、あんたなんか死んじゃえって言われた。はははっ。」

「はははっ、じゃないわよ!なんで名前がそんなこと言われなきゃなんないのよ。酷すぎる。」

「でも物理的に何かされるよりマシだよ。」

「それでも酷いわよ。跡部くんは名前がこんな目にあってること知ってるの?」

「知らない。」

「なんで言わないのよ。」

「言ったらその子たち退学させられちゃって騒ぎが大きくなりそうで嫌なの。」

「でも…。」

「まだ暴力とか持ち物に何もされてないしこれくらないならあたしは大丈夫だから。」

「そうなるのも時間の問題だと思うけど。多分どんどんエスカレートしていくよ。」


友達の言うようにその時は割りと早くやって来た。まずは下駄箱から上履きが消え、その次は教科書、体操服。幸い跡部とはクラスが違うし、友達にも口止めしていたのでこれらのことはばれずに済んでいた。しかし遂にどうにも言い逃れが出来ない状況になった。女子数人に呼び出しをくらって、というか半ば強引に連れて来られた体育倉庫の中に1人閉じ込められていたところを跡部が助けに来た。あたしは友達に助けを求めたのに。もう黙っているのは耐えられなくなったのだろう。

「跡部…なんで。」

「お前の友達が教えてくれた。」

「そう。」

「なんで俺に言わねぇんだよ!」

急な大きな声に驚く。

「だって言ったら跡部どうする?」

「相手のやつを学園から追い出す。」

「でしょ。そんなの嫌だよ。」

「なんでだよ。」

「その子たちの気持ちわかるもん。あたしだって跡部と付き合う前は跡部と仲良くしてる子を恨んだもん。憎んだもん。だから責められないよ。」

「だとしてもこんなことするなんてやり過ぎだろ。」

「そうかもしんないけどこれくらいなら大丈夫だから。」

「今はこれくらいでも後々もっと酷いことされるだろ。」

「そんなのわかんないし、実際にされたらどうにかすればいいじゃん。」

「馬鹿なこと言ってんじゃねぇよ!お前が苦しむ姿なんて見たくねぇんだよ。」

「だからあたしは大丈夫だって。」

「大丈夫じゃねぇだろ。今だって泣きそうな顔してんじゃねぇか。」

「…そんなことないよ。」

跡部にそう言われてあたしの中で何かが崩れた。今まで大丈夫だ、辛くないと自分に言い聞かせて、押さえつけてきたものが涙となって溢れてきた。その姿を見た跡部は優しくあたしを抱き締める。

「心配させやがって。」

「…ご、ごめん…なさい。」

「これからはちゃんと言え。」

「でも。」

「大丈夫だ。対処の仕方は考える。そもそもお前が辛い思いをするようなことはもうさせねぇ。俺が名前を守る。」

「うん。ありがとう。」

跡部の顔が近づいて唇が重なる。とても優しく包み込まれる感覚。あたしの全てが跡部でいっぱいになる。もう世界に二人だけなんじゃないかと思えるほど何も見えない聞こえない。幸せな世界。出来ることならずっとこのままでいたい。跡部も同じ気持ちだったら嬉しいな。





20141105
title:route A

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