6時限目の古文をあたしはサボるべく部室に来ている。ただでさえ眠くなる古文が6時限目だなんてやる気云々というより存在すら鬱陶しい。遥か昔の事なんてどうだっていい。訳のわかんない最早日本語なんだかよくわかんない文章を現代語訳してなんの意味がある。その上で勝手な解釈をし点数を取る。本当に無意味な気がしてならない。もう古文なんてなくなってしまえ。なんて理不尽なことを考えつつあたしは跡部専用ソファーに横になる。あたしのベッドなんかよりずっと高価であろうこいつはただ座るだけなんて勿体無いと思うほどに優しくあたしの重みを受け止めてくれる。とても心地よい気分になってあたしはすぐ眠りについた。
どれくらい時間が経っただろう。あたしが眠りについて暫くして部室の奥でガシャンと音がした。あたしはまだ夢と現実の間をうろうろしている。そしてまたガシャンと音がした。心地よい眠りを邪魔されて不機嫌になったあたしはうっすらと目を開けた。寝起きのせいかまだ視界がぼやけて辺りの様子がよくわからない。しかし部室の奥に何か人影のようなものがあるのはわかった。
「誰?」
あたしはその人影に向かって声をかけた。しかし返事がない。だいぶ視界がクリアになったので人影をよく見てみるとそれはジローだった。
「ジローじゃん。あんたもここで寝てたの?」
しかしまた返事がない。どうやら立ったまま寝ているみたいだ。なんとまあ器用なんだろうとジローを見つめているとフラフラ歩きながらこっちに向かってくる。
「ジロー。起きて。」
危なっかしくて心配になったのでジローを起こそうと声をかける。それでもジローは起きずこっちに向かってくる。
「ジロー起きて!危ないよ!」
するとジローはピタッと足を止めた。あたしはひとまず安心していると急に服を脱ぎ始めた。
「ちょっ!ジロー何してんの!ダメだよ服脱いじゃ!」
あたしはジローに近寄って力尽くで脱ぐのを止めさせようとするがジローの力には勝てない。どんどん脱ぎ進めてついにパンツだけになってしまった。あたしは急に恥ずかしくなって部室から出ようとしたらジローが覆い被さってきてさっきまであたしが寝ていたソファーに二人で倒れ込んだ。
「ちょっとちょっとジロー!退いてよ!重いって!」
この状況に及んでもジローはまだ寝てるみたいであたしの左肩近くにある口から寝息が聞こえる。あたしは必死でジローから離れようとするが重くてなかなか動けない。一生懸命もがいていると部室のドアが開く音がした。あたしはハッとしてドアの方を見るとそこには顔を真っ赤にした岳人が立っていた。
「お、お前…」
「ち、違うの!ジローが急に…」
あたしがこの状況に至った経緯を説明し終わる前に岳人は走って行ってしまった。あたしはとんでもない所を見られてしまったと焦っていると遠くの方で岳人が何かを叫んでいる。何を言っているのかと耳を澄まして聞いてみると。
「名前と芥川が部室でヤってた!しかも跡部専用ソファーで!」
なんてことだ。あたしの人生終わった。血の気が引いていき冷や汗が流れてきた。恐らく顔は真っ青になっているのだろう。しかし頭まだ真っ白にはならず何とか機能している。これから先のことを考えてみたがやはりとてつもない状況に陥っているのは変わらない。あたしがあれは誤解だと言っても信じてもらえないだろう。ジローのファンは多いからあたしはこれからその子たちに何をされるのだろう。しかもの理由がよくわからないが跡部専用ソファーでヤっていたということで跡部関係からもなにか言われそうな気がする。考えれば考えるほど悪いことしか浮かばない。絶望感に浸っているとあたしの上で未だに寝ているジローの体が小刻みに揺れた。
「ジロー。あんたのせいでとんでもないことになったんだけど!」
するとジローがまた小刻みに揺れた。ん?
「ねぇもしかして起きてる?」
「フフッ。」
今笑った?笑ったよね?
「ジロー起きてるでしょ。なら退いてよ!」
するとジローはまた寝息をたてだした。いやこれ絶対嘘寝でしょ。なんなの。なんで退いてくれないの。……はっ!
「もしかしてあんた最初から起きてた?!」
するとジローの体が大きく揺れる。当たりか!ということは服を脱いだのもあたしに覆い被さってきたのも今のこの状態も全部わざとってこと!?ちょっと待ってよ。なにしてくれてんのよ!あんたのせいであたしのこれからの学園生活が地獄に変わるってのに。なんでよ!
「ジロー最低!変態!起きてんなら退けって言ってんでしょうが!バカ!」
「スースー…」
もうなんかどうでもよくなってきた。ジローの体温とソファーの気持ちよさになんだか眠たくなってきた。こんな状況でも人は眠くなるのかと感心しつつこの重みから解放されて部室を出たらもうこんな心地のよい気分は味わえなくなるような気がしたのであたしは目を閉じることにした。少しでもこの状況を忘れられるよい夢をみられることと目が覚めたら誤解が解けていることを願いつつ眠りに落ちる。
20140910
真相はジローのみぞ知る。
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