名字さんてノリ悪いよね。なに考えてるかわかんないし。
クラス替えから2週間も経つとこんな声がクラスから聞こえてくる。それは言い方は違えど幼稚舎の頃から毎年。新学期の初めの頃はみんなが積極的に私に話し掛けてくれるが2週間もすればみんな離れていってしまう。これは全部私のせい。私の反応や受け答えが悪いから。
私は小さいときから周りとうまく馴染めない。自分から話し掛けるなんてことはとてもじゃないができない。だから話し掛けてくれる子には精一杯頑張って対応しようと思っているのだがどうにもうまくいかない。自分では努力しているつもりなのだかなかなか実を結ばない。おどおどしてうまく言葉が出てこない。こちらから話題を提供しようとしても何を話していいのかわからない。自己嫌悪の毎日。それが嫌で人付き合いすることをやめにした。すると少しだけ気が楽になった。でもなにか報われない。私から世界を拒絶したのにどこか寂しい。みんな死んでしまえ。なんて思ってみても結局行き着くのは自分がいなくなればいいんだという結論。でもまだ世界を手放したくはない。こんなことをいつも堂々巡りで考えて。そんな自分は臆病者だと思う。何かに怯えて拒絶して。もいつかこんな私を認めてくれる人が現れるという欲を糧に、希望に生きている。本当に臆病者。
放課後私は日直の仕事をするため鳳くんと教室に残っていた。
鳳くんなんて私とは正反対の人だと思う。キラキラした世界の中心にいる人。存在すら眩しい。業務連絡以外でこの人と会話をするなんてことは一生ないだろう。
「日誌書けた?」
「まだ少しかかるから鳳くんは部活行っていいよ。」
「ダメだよ。俺も日直なんだから書き終わるまで待ってるよ。」
「私なんかに気を使わなくていいから。部活の時間減っちゃうし。書いて先生に出しに行くだけだから。」
「仕事押し付けてるみたいで俺が嫌だし。部活の時間減るのは名字さんだって一緒だから。」
これ以上言っても了承してくれそうになかったから待っていてもらうことにした。
「わかった。じゃあ急いで書くね。」
「ゆっくりでいいよ。」
そう言って鳳くんは私の隣の席に腰掛けた。私は鳳くんを待たすのが申し訳なくて急いで日誌を書く。
「名字さんて絵上手だよね。」
「えっ。なんで…」
「文化祭で展示されてた名字さんの絵を見てさ。上手だなって。」
私は小さい時から絵を描くのが好きで美術部に所属している。絵を描いている時だけは嫌なことを忘れて自分を解放できる。言葉では上手く言えないことも絵を通してだったら発することができる。私にとって絵を描くことは自己表現だから。その絵を鳳くんが見ていてくれていたなんて。私の中何かが熱を帯びた。
「名字さんて普段あまりしゃべらないから正直何を考えているのかわからなかったし、冷たい人なのかななんて思ってたけど、絵を見たら違うってわかった。」
「……。」
「本当はすごくあったかくて優しい人なんだって。人の絵を見て初めて感動したんだ。」
鳳くんは何の淀みのない真っ直ぐとした目で私を見ていた。こんな目で人に見つめられたことは初めてだ。
「急にこんなこと言っちゃってごめん。日誌書くの邪魔しちゃったね。」
「そ、そんなことないよ。でもまさか鳳くんが私なんかの絵を見ていてくれたなんて。」
「さっきも気になったんだけど、私なんか、って言うのやめた方がいいよ。」
「……。」
こんなキラキラした人に自分のネガティブでいやな部分を指摘された気がして辛い。
「名字さんは自分を過小評価し過ぎだと思うよ。あんなにすごい絵を描けるんだからもっとアピールした方がいいよ。」
「すごくなんかないし過小評価もしてない。アピールなんてそんな。」
「本当にすごいのに…」
そういうと鳳くんは机に附してしまった。私はその間に中断していた日誌を書き進める。
「日誌書けたよ。先生のところに行こ。」
私は立ち上がった。すると鳳くんは私の手を掴んだ。びっくりして体が硬直する。
「お願いがあるんだけど。」
「な、なに。」
「俺のために一枚絵を描いてくれない?」
「えっ。」
鳳くんからの突然の要望に私は戸惑う。
「な、なんで。」
「名字さんのこともっと知りたいと思うから。」
鳳くんはキラキラした笑顔を私に向けていた。でも照れているのか少し顔が赤い。
「いいよ。」
「本当に?」
「うん。」
「やった!」
さっきよりももっと笑顔を輝かせて喜ぶ鳳くん。
「やっと笑った。」
「え?」
鳳くんにつられてか気づくと私も笑顔になっていた。
「その方が素敵だよ。名字さんらしい。」
今まで周りを拒絶して、世界から自分を排除して自分らしさなんて考えたこともなかった。でも今日鳳くんの言葉をきっかけに私は少しだけ世界に近づけた気がする。これから行動を起こせば私は世界の一員になれるかもしれない。そんな希望を与えてくれた感謝の意味も込めて。
「ありがとう。」
20140908
恋愛の話というよりは主人公の心の闇に光を与えるをテーマに。
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