「つまり君は私と付き合いたいと。」
「はい。」
「私に好意があると。」
「はい。」
「だとしたら君。ナンセンスだよ。」
「は?」
好きです。と告白をしたらこんな流れになった。以前跡部さんに部活のことで話があったので教室に行ったら彼女がいた。あの跡部さんに容赦ない語り口で突っかかっていた。会話の内容は不明だったが彼女は周りの生徒と纏っている空気が、雰囲気が、何かが違った。その姿を見た瞬間俺は何か見えないものが身体に染み込んで全身を支配される感覚を覚えた。自分でもこんな感覚は初めてだった。後にこれが恋だということに気付き、いてもたってもいられず、俺は彼女を自分のものにしたくて告白という行動に移した。そして冒頭のやり取りに戻る。
「君、名前は?」
「日吉若です。」
「2年生だよね?なんであたしのこと知ってるの?」
「以前跡部さんに用があって教室に行った時に見かけて。」
「跡部に用事ってことはテニス部?」
「はい。」
自分で言うのは恥ずかしいがこの学園の生徒でありながらテニス部のレギュラーである俺のことを全く知らないとは。跡部さんと知り合いなのだからなおのことだ。やはり彼女は他の生徒とは少し違うと思う。
「君さぁ、日吉君だっけ?喋ったこともないのにいきなり好きだって言われてもね。」
「まぁそうですよね。」
「しかもあたしは今日初めて日吉君という存在を知ったわけだし。」
「ええ。」
なかなか聞いていて辛い言葉が続く。確かに話したことはないけれど俺の名前くらいは知ってくれていると思っていたからこの状況から付き合うまで話を持っていくのは厳しいものがある。やはり事を急ぎすぎたか。
「日吉君、趣味は?」
「…え、えっと…読書です。」
「ふんふん。じゃあ犬派?猫派?」
「犬ですかね。」
「和食と洋食だったらどっちが好き?」
「和食です。」
「なるほど。」
なんなんだ一体。面接か?お見合いか?お見合いだったらこっちも質問した方がいいのか?
「じゃあいいよ。」
「…何がですか?」
「付き合うって話だよ。そういう話だよね?違った?」
「違いません違いません!…本当にいいんですか?」
「いいよ。」
「一度も話したことないのに。」
「今話してるじゃない。」
「こんな短時間で?」
「日吉君の方こそ一度も話したことないのに告白してきたじゃない。何?振られる前提だったの?」
「そういうわけじゃないですけど。」
「日吉君って不思議だね。」
「名字さん程じゃないですよ。」
「あたしの名前知ってるんだ。」
「当たり前ですよ。」
「よし。今日から君を不思議ちゃんと呼ぼう。」
「嫌ですよ。」
「じゃあナンセンス君で。」
「意味がわかりませんよ。」
初めて見た瞬間から俺は彼女に夢中だ。理由はなんだろう。纏っている空気とか雰囲気とか話す言葉とか?はっきりしたものはわからないがとにかく惹かれるんだ。もしかしたら彼女から発せられる電波に引き寄せられているのかもしれない。もしくはこの何かわからない感じがいいのかもしれない。
「ナンセンス君。ナンセンス君。」
「俺の何がナンセンスなんですか?」
「私を好きだという所だよ。」
「なんだか振り出しに戻ったみたいだ。」
「つまり君は私と付き合いたいと?」
「やめてください。」
20141008
彼女電波かしら。
そして日吉らしくない。
thanks:スイミー
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