「ごめん、ごめんっ…」
突然私を力強く抱きしめたベルはらしくもない涙を流した。いつも自信に満ち溢れている彼のこんな姿は初めてで、この十年もの月日の重みを知る。
「ベル、苦しい!」
「っわり…」
その圧迫感から開放されたと思ったらベルは驚いたように硬直し「十年前?」と小さな声で呟いた。
ここまで気付かれないって、私は成長していないのか。
「ねえベル、これって何なの?」
「…オレのせいだ。お前が狙われたのもオレに関わったからなんだよ。
くそっ、だから別れたってのに…っ!」
「え?」
ベルと、別れた?
はっとしたように私を見たベルは、軽く唇を噛んだ。らしくない。
「オレはお前を巻き込みたくなかったから、一週間前に別れたんだ」
お前を部屋に呼んで、わざと他の女連れ込んで。泣くアオイを見て胸がこれでもかって痛んだけど、オレはお前を突き放した。
別れるなら、もう二度と近づきたくないと思えるほどに嫌われたかった。
「いっぱい傷つけてごめん…」
ベルは、今の私を通して未来の私の姿を見ているのかもしれない。
いつも一方的に守られてばかりだ。ベルの気持ちなんて知らないで。
「未来の私に言ってあげてよ」
「もう、遅い」
オレとお前との関係は全て終わった。
もう戻れない、戻ってはいけない。
ベルの髪の隙間からは、濁ったスカイブルーが垣間見えた。