Vol.4
□拍手連載□ニュース・クーの真相Vol.4
〔相も変わらずの最悪カップルが、今度はアレをめぐって大喧嘩!?〕
珍しいかと言われたらそうでもねェが、随分素直に買い物に付き合ってくれと言われて丁度手が空いた所だったので特に何も考えずについて行くことにしたのが、そもそも間違いだった。
おれの両手には今、紙袋がざっと8つ。勿論鬼哭を持つ事もできねェ訳だがどういう訳か、それはおれの横を鼻歌交じりに腹が立つほど軽快な足取りで歩くこのじゃじゃ馬が持っている。
「あと下着買いたいの、それで最後」
「……お前、この状態でおれに下着屋の前で待てと言うのか?」
「え? ローがよければ別に一緒に選んでもいいわよ」
「そういう問題じゃねェ!!」
「じゃあ何よ」
結局の所おれはただの荷物持ちだった……別に何かを期待していた訳じゃない。決してそんな事はない。出かけ際にペンギンが憎たらしい程の笑みを浮かべていたのもいつもの事で、決しておれがなにか浮ついていたとかそんな事がある訳がねェ。
ひとまず下着屋に着いて外で待つのも中で待つのももうどっちも変わらねェと思ったおれはそのまま店の中に入る事にした。
コイツの下着は今の所……黒と赤と水色、そして紫(パステル寄り)しか見た事がねェ。わざわざ見たというか、見える事の方が多いそれは、割と攻撃的なラインナップのようにも思えるが紫が淡い色合いなのはせめてもの可愛らしさといった所だろうか。勿論手に取るのもその系統ばかりで、たまには白でも買ったらどうなんだと、割とどうでもいい事を思ったその時だった。
「……それでね、ゾ……ロー」
「……」
「ロー、これとかどう?」
おれが聞き間違える訳がない。確実に今、おれのことを『ゾロ』と言いやがった。その証拠にたまたま近くにあっただけだろう黄色い総レースのベビードールを手に取った。しかも隠す気の全くなさそうなタイプ。
「……お前今間違えただろ」
「そ、そんな顔したらシワが増えるゾ、ロー」
「誤魔化しても無駄だ、気持ち悪ィ」
「き、気持ち悪いとは何よ!」
「何が『シワが増えるゾ♪』だ」
「そんなに語尾上がってないわよ!! ローこそ気持ち悪いわね!!」
「元はといえばお前がおれを呼び間違えたのが悪ィ、しかもそれがゾロ屋ときたもんだ」
「だってしょうがないじゃない! ゾロといた時間の方が長いんだから!!!」
……その言葉にプツリ、と、何かが切れたような音がおれの脳内でした。それがどうしてなのかは正直わからねェが、その後は考えるよりも前にすらすらと言葉が勝手に出てきた。
「……あァ確かにそうだな、おれが悪かった。それより、それ買えよ、つーか買ってやる」
「は!? えっ!? 何急に、何言ってるの? こんなの着る訳ないじゃない!」
「これとかどう? って聞いてきたのはお前だろ、おれは似合うと思ったし、なら買ってやろうと思った訳で何か問題あるか?」
「!!? なっ……!」
……この女にも恥じらいがあったのかなんなのか、急に目を泳がせたかと思えば見る見るうちに頬が赤く染まっていくのが分かった。しかも周りには、おれらに気付いたのか少しばかり人だかりが出来ていたから、尚更だろう。
「何顔真っ赤にしてんだよ、今更こんなんで照れるような仲じゃねェだろ」
「えっ、あっ、そ……そうよね!! ならコレも買ってもらえるかしら!?」
「ヘェ……お前挑発してんのか」
「そんなつもりじゃなくて、ほら……ねっ? 随分ギャラリーも増えてきちゃったし! 早く買って船に戻りましょう?」
どうやらおれの言動がいつもの演技だと思ったらしく、何枚か下着を選ぶとレジへと走って行った。おれは別にいいが、よくもまぁそんなにエロい面積の少ない下着ばっかり選んで……本当にそれをつける気なのかお前は。あのベビードールの流れで後に引けなくなったのだろう事は簡単に想像はつくが、やりすぎだろうが、全く。
「……」
「どうした」
「……いえ、別に」
「さっきまでのテンションはどうした」
店を出てから、ほとんどしゃべらなくなったおれの隣を歩く副船長。原因はどう考えても下着屋での一件だろう。一体何を考えてるのかと思えば、だ。
「だって、私こんな下着着て船内歩いたらただの痴女じゃない……」
「……そんな性癖があったのか」
「違うわよ! そんなつもりはないけれど、いつ何があるか分からない……じゃない」
「じゃあ着けなきゃいいだろ」
「とはいえ、替えが必要だから買った訳で……しまっておいても、もしそれが誰かに見つかったら私どんな顔すればいいのか!」
「……ならおれが預かれば問題ねェ、確か多少マシなのが2セットくらいあったろ、それだけ使え」
「……? 確かに収納スペースも私の部屋よりはるかに広いし、ローがそう言うなら……お願いしようかしら」
こうして今日買った下着のうちの数セットはおれの部屋で預かる事になった。
……後から考えれば、それがおれの部屋で誰かに見られた場合もちょっとした騒ぎになるであろう事は安易に想像できたはずなのだが……その時のおれ達は、そんな簡単な事に気付けなかったのだ。
◇
数日後
「おいペンギン!!」
「なんだよ何鼻血出してんだシャチ」
「ちょ、キャプテンの部屋にさ、なんかすっげー下着あったんだけど、女物の!!」
「……何となく想像はついてたが、アレってのはそれか」
「アレって? それ? え、何の話?」
「お前、たまには新聞読めよ、色々捗るぞ」
「お、おう……?」
「でもそもそもの発端はきっと別だろうなァ……新聞記者もある事ない事よく書くよな、全く」
そのすんげー下着というのは、つい先日記事になった下着屋で二人が購入したという際どいランジェリーのうちの一つ、だろう。きっと何か些細な事で言い合いになって意地になって、買うとか買わないとかってなって……そしてそのランジェリーはキャプテンの所へとやってきたのだろう。いや本当に想像すると面白い。
それにしても、そろそろ引き出しの中を整理しねェと保管する場所がなくなってきた。そんな事を思いながら……今日も甲板で昼寝する二人を、おれはしっかりと目に焼き付ける。
天気は快晴。今日もこの船には穏やかないい風が吹いてる。
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