運命の悪戯とは残酷だ

どうして真琴でなければならなかった?

世の中死にたいやつなんてごまんといるのに

お願いします、神様

どうか俺から、彼女を奪わないでくれ


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


俺は静まり返る病院内で一人、ソファーに腰を下ろしていた

目の前にはランプの点灯している集中治療室

「真琴…」

俺は彼女の名前をぽつりと呟くと、先ほどの光景を思い出した


病気で入院している彼女の見舞いの為、病室を尋ねると

彼女の苦しそうな顔が見えた

慌ててナースコールで看護師を呼ぶと、容態が相当悪いのかすぐに集中治療室へ運ばれた

とりあえず、彼女の両親へ連絡してみたもののどちらも出てくれなかった

留守電に一言残したが、一向に来る気配がない

俺は一人、点灯しているランプを見つめた


あいつはいつも、俺が病室を出ると泣いていた

「生きたい…若と生きたいよ…」

鼻を啜る音まで聞こえて、いつもいつも神を恨んだ

なあ神様、いるならアイツを助けてくれよ






点灯していたランプがふっと消えた

慌てて立ち上がると医師がこちらへと出てくる

「今夜が峠です」

首を横に振り悲しそうに言う医師をみて絶望した

そして許可を得ると、治療室の中へと入った

呼吸器を付けて、苦しそうに浅い呼吸を繰り返している彼女を見て

目に涙が浮かんだ

慌てて袖で目元を拭うと、弱々しく呼吸をする彼女に声をかけた

「気分はどうだ?」

薄く目を開いた彼女にそう問うと

彼女はにこりと弱々しい笑顔を見せた

「わ…かし…心配…かけて…ごめん、ね」

申し訳なさそうに謝罪をする彼女に、頭を撫でてやる

「気にするな。慣れてる」

穏やかに言うと、彼女は小さく頷いた

「若。一生に一度のお願い、聞いて欲しい」

頭を撫でていた手をきゅっと握られ、嫌な予感が冴え渡った

聞いたらいけない

口を開くことに渋っている俺を見て

彼女は返事も待たずに続けた

「私の分まで幸せになって。若」

そう言った彼女に、“ああ”と、伝えた

真琴はそれを聞き届けると笑顔で目を瞑り

そして、彼女は永い永い眠りについた






部屋中に響き渡る機械音

一定の音を繰り返す機械は

真琴が逝ってしまったことを俺に認識させた

医師や看護師が慌てて心臓マッサージをしているのを

後方で眺めることしか出来なかった

「お前がいない世界で、独りで生きて、幸せになれなんて


お前の願いは随分と酷だな」

そう呟いた俺の瞳には、次々と涙が溢れて

止まらなかった

なぁ、真琴

お前は幸せだったか?





END
→あとがき




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