「美男美女カップルなんて言われてんだな」
二人で教室まで戻る最中、はじめちゃんがぽつりと呟いた
「まず、徹は美男子ではない。
そして私的に、徹はお断り」
ため息をついてそう言えば、彼は“そうだな”なんてぼんやりと言う
そして何故だかいきなり腕を掴まれて、空き教室へと連れていかれた
「はじめちゃん?」
彼の不思議な行動に首を傾げていると
とんでもない言葉が投げられた
「お前、腕相撲大会で負けたら俺と付き合え」
あまりに唐突な言葉に頭が回らず
「どこに?」
そんなベタな言葉しか出てこなかった
「“俺に”じゃねえ。“俺と”だ」
彼は苛立った様にそう言う
「私が勝ったら?」
余裕がある様にそう尋ねてみたが
内心意味がわからなくて混乱している
私達はただの幼馴染みで
今までそんな事、考えてもみなかったわけで
意識してみれば急に恥ずかしさが込み上げてきた
「ジュース奢り、だろ?」
彼は不敵に笑うと教室を出ていってしまった
私は告白される事に慣れている
後輩の言った通り、黙っていれば男が寄り付いた
まあ、口を開くとみんな逃げて行くんだけども
それでもはじめちゃんは私がいいのだろうか
女らしさの欠片もない私を
好きだと言うのだろうか
この胸の高鳴りは何なのだろうか
考えても答えなんて出そうに無かった
△▼△▼△
腕相撲大会は順調だった
はじめちゃんとはブロックが違うので決勝まで当たらない
わざと負けてしまおうかとも思ったけど
それが出来れば苦労しない、自分の性分を十分理解している
はじめちゃん以外は強い人なんて居なかったので
楽々と決勝まで上り詰めてしまった
「お前、約束忘れんなよ?」
その言葉にどくりと鳴る鼓動
負けるつもりは無いけど、何処かで負ける事を望む自分がいた
向かい合い軽く頷くと、お互いの手を握る
バレーを頑張るはじめちゃんの手はごつごつしていて
やっぱり男の子だなと再認識した
審判の合図でお互いが腕に力を入れる
てっぺんから動かないお互いの腕に
周りは息を呑む様な視線を向けた
だが、はじめちゃんがニヤリと笑うと
私の手の甲は机に触れていた
やっぱりはじめちゃんは強い
私は一息つくと彼の方へ目を向けた
珍しく嬉しそうにしている姿を見て
私もはじめちゃんが好きなんだなと認識してしまった
私のプライドはいとも容易く崩れて
それはこんなに簡単に許容できてしまって
“なんだ、はじめちゃんの事が好きだったんだ”
その言葉が胸にストンと落ちてきた気がした
「約束」
耳元で笑顔で呟く彼を
初めて愛おしいと思ってしまった
END
→あとがき