「おーい。こんなとこで寝てんじゃねーぞ」

私はその声にぱっと目が覚めた

寝惚けた頭で辺りを見渡せば、夕焼けで空は朱に染まっていた

視界に黒尾先輩が映り、私は慌てて立ち上がる

「あれ?え?黒尾先輩?あ、部活?」

私は自分でも何を言っているのかわからなくて

先輩に何を尋ねたのか、わからなかった

それでも彼は、そんな私を見てにやりと笑うと

頭をぐりぐりと撫でまわした

「今日は体育館の点検入るって言ってたろ?休みだよバーカ」

頭が冴えてきて頬が上気するのがわかった

「そ、そうでした!あ、犬岡!起きて」

私が揺り起こすと、彼はすんなりと起き上がり目元を擦った

「二人とも、起きたんなら風邪引く前に帰れよ。

じゃあ俺、彼女待たせてっから」

そう言うと彼は片手をひらひらと振り、門の方へと行ってしまった

私は“彼女”という言葉に胸がズキンと傷んで

手を振り返すことが出来なかった

俯いて平静を装う

わかっていた事でしょう?

それでも私は、先輩が好きなんだ

「………先輩、一緒に帰りませんか?」

背後から犬岡に声をかけられはっとした

「うん。帰ろう、犬岡」

そう言うと私たちは鞄を取りに戻り

校門で合流してから帰路についた

「先輩、少し話しませんか?」

彼はいつもと違う、ふわりとした笑みを浮かべると

公園の方を指さした

「いいよ。行こう」

そう言いベンチに向かうと、腰掛けた

そして、彼は一つ深呼吸をするとこちらに向き合った

「先輩。おれ、吉野先輩が好きです。

例え先輩が、キャプテンのことを好きでも」

その言葉に驚いて彼を見れば、困ったように笑っていた

「先輩が彼女持ちのキャプテンを好きなのはわかってます。

でも、俺はもう苦しむアナタを見たくないんです。

俺は先輩を悲しませないし傍にいます」


ああ

悲しい時に、弱くなりたい時に

彼はいつも傍に居てくれた

優しくしてくれた

彼のことを好きになれたら

どれだけ楽なんだろう

どれだけ幸せなんだろう

愛するよりも愛される方が幸せになれるだなんて

何処かの誰かが言っていたけど


でもね、私は


「ごめんね、犬岡。

アナタを好きになれたら良かったのに。

傷つくとわかっていてもね、

あの人が好きなの」

今泣くのはずるい

わかってる

でも涙が止まらない

せめて俯かないで彼をしっかり見よう

私の気持ちが本気だって伝えるように

彼の目を捉えた

苦笑した彼は

「わかってますよ」

そう呟いて私を抱きしめた

「ごめん、ごめんね。

黒尾先輩が好きで

諦められなくて

ごめんね」

私に優しくしてくれたアナタを忘れない

でもやっぱり私は

決して愛してくれないあの人じゃなきゃダメなの

ねえ、黒尾先輩

私のこと好きになってよ

こっち向いてよ

少しでも私を見てよ

大好きなんだよ、先輩




END
→あとがき




Back 






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -