彼は誰にでも優しい。
言葉や態度ばっかり悪ぶっても、隠せない。他人には甘くて、自分には厳しい。変なところで一直線。

彼はとても分かりやすい性格をしているけど、あんまり辛いとか苦しいとか言葉にしない。無自覚なのか自称不良としての意地なのか、助けを求めたりはしない。自分は困ってる人を、絶対放っとけないくせに。


だから僕はたまに、すごく彼を甘やかしたくなる。恥じらって、耳まで真っ赤にして、「もういい」って涙目で叫びだすまで、どろどろに甘く甘く、優しく優しく、溶かしてあげたくなるのだ。













「渡狸〜、朝ですよ」

眩しい朝日を遮るカーテンを半分だけ開ける。布団の暗がりに逃げた恋人は眠りの淵から中々抜け出せないらしい。いつも寝起きは良いほうなのに、今は起こしてくれるなと言わんばかりにきゅっとシーツを掴んでいる。
ベッドの端に腰掛けて布団の山を包む様に覆いかぶさる。


「遅刻しちゃうよ〜?」
「ん…」


起き抜けの、鼻にかかった甘い声。ぼんやりとした意識で僕の声を辿っているのだろうか。子供体温の彼の体を優しく揺する。
寝顔を晒す無防備さ、あどけない仕草、かわいい。かわいい。
こつん、と額を合わせれば間近に迫る彼の顔。ゆるく潤んだ瞳。ざんげ、と擦れた声。
ああ近い。
キスできそうなくらい。


「おはよう卍里」

ちゅっ。

一瞬だけ重なった唇に、彼の意識は覚醒した。びくっと跳ねた体。羞恥に染まる顔。すかさず再び布団の中に逃げようとした渡狸の体を上からしっかり抱き締める。さっきみたいに優しくじゃなく、ちょっとだけ強く、逃げられないように。

「だーめ、逃がさないよ」
「は、離せバカ!起きる!」

不意打ちなんて、卑怯者!なんて真っ赤な顔して言われても全然傷つかない。むしろ悪戯が成功したみたいで面白くって、それを上回るくらい恥じらう彼がいとしい。いとしい。


「じゃあキスするね」
「はあ!?」
「だって不意打ちじゃなきゃいいんだもんね☆」
「よくねえ!」

「そんな可愛い顔して言われたって、止まんないよ。」

額、瞼、耳、頬、唇、指、順番にキスしていくたびに、どんどん渡狸の体から力が抜けていくのが分かる。口付ける度にん、と甘い声が上がって、その度に微かな高揚感を得る。ゆっくり、ゆっくり。尖った氷が水に戻る様に、甘い蜂蜜がミルクに混ざるように、ゆっくり、ぐずぐずに、跡形もなく、ただただ溶けてしまえばいいのに。
告白してしまうと、
僕は彼を甘やかしてしまいたいのは勿論そうなんだけれど、
いやってほど甘やかしてぐずぐずに溶かして、
そんな彼の恥じらいだとか喜びだとかためらいだとかがいっしょくたにぐちゃぐちゃになって潤みだした瞳からただ一滴の水滴が零れ落ちそうになる様を見たいって、ほんの少しだけ思ってもいるんだ。

「………も、いい、から」

溶けた。

尖った氷は柔らかな水に戻って、目から零れ落ちそうだったので、そっと唇ですくい上げる。

「目、覚めた?」
「…うっせーばか」

ぐいぐい肩を押し返してくる彼の手に従って起き上がる。本当はもっと見ていたいけれど、このままじゃ本当に遅刻しかねない。支度を手伝ってあげなくてはと、ベッドを下りようとした所で服の裾を掴まれた。

「どしたのラスカル?」
「ラスカルじゃねーし!ってそうじゃなくて」
「えー何々?」

向き合った渡狸が膝立ちでこちらを見上げている。開いた襟元からきれいな鎖骨が見えて、そういえばあそこにはキスし忘れちゃったなとふと思った。


ちゅ


「…ざ、ざまーみろ!」


熟れた林檎みたいに赤い頬と柔らかな唇が離れていくのをぼんやりと見ているしか出来なかった。不意打ちじゃないか。

ぐずぐずに、どろどろに、跡形もなく、溶けてしまえばいいのにと想いながら、溶かされるのはいつも僕の方だった。






Lilas様の9000hitキリリクで頂きました!
ああもう渡狸可愛いです!!
甘やかしながらもすこしSっ気のある残夏もすごく萌えます///


up:2012/08/10

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