「渡狸くん。頬にケチャップがついているぞ」
「んぁ?取れたか?」
「違う。反対だ」
ケチャップがついている頬とは逆の頬を拭う渡狸に、凛々蝶はやれやれと肩を竦める。仕方ないな、と元来世話焼きな彼女はナフキンを取り出し拭おうとしたが、ヒョイとそれは取り上げられ、別の人物が渡狸の頬を拭う。
「はい、取れたよー渡狸」
「おーサンキュー残夏」
「どーいたしまして」
ニコニコと渡狸の背後に立ち、時折からかう夏目の姿に凛々蝶は肩を竦める。毎度の事なのだから一々気にした所できりがない。小さく息をつき自分が座っていた席へと戻れば、ニコリと微笑む御狐神と目が合う。
「いつもながら渡狸さん達は仲良しですね」
「そうだな」
「あれならまだ可愛い方なんじゃね?だって俺こないだ大浴場に入ろーとしたら、渡狸が入ってたのかすんげー顔で追い返されたもん」
怖かったー、と背後から現れた反ノ塚は本当にそう思っているのかと問いたいくらいの表情で、凛々蝶はフンと鼻を鳴らした。
「いつも通りですよ。お兄様」
「いや、追い返すのはやり過ぎじゃないか?」
「夏目さんは昔から渡狸さんがお好きでしたから」
「そういう問題か?」
納得がいかないのか呆れたように形の良い眉をしかめる凛々蝶。そもそも彼ならもっと上手く立ち回るような気もするが、どうなのだろうと、最近の出来事を思い出す。
「…そういえばこの前夏目くんが学校に来た時、クラスメートと渡狸くんが話していたのを邪魔していたな」
「あーそれ俺も見たわ」
先日学校に迎えに来た御狐神と夏目。クラスメートと話していた渡狸に、夏目が近づきからかうように渡狸を腕の中に閉じ込めていた。何でもないかのやり取りでも、確かに夏目の行動は些か独占欲が強いのかもしれない、と凛々蝶は思う。
「一応隠している様なので、気付いてない振りをしていた方がいいかもしれませんね」
「……わかっていてあえてからかおうとする奴もいるみたいだけどなー」
「…蜻蛉か」
今正にニヤニヤと笑みを浮かべ、夏目と渡狸の元へと近寄る蜻蛉の姿に凛々蝶は眉をしかめた。
「卍里、貴様に土産をやろう」
「な、何だよ。またどっか行って来たのかよ」
「そんな所だ。ほら、手を出せ」
おっかなびっくり手を差し出す渡狸の手を叩き、夏目はニッコリと笑みを浮かべる。クッと喉を鳴らす蜻蛉は楽しげに渡狸の腕を引こうとすれば、何気ない動作で夏目は渡狸を腕の中に囲む。
「蜻たん」
「冗談だ。私はそろそろ退散するとしよう。馬に蹴られる趣味はないからな」
「馬?何だよ馬って」
意味がわからない、と首を傾げる渡狸に蜻蛉はニィと口の端を上げ、残夏に聞けばわかる。とだけ言い残しラウンジを後にした。残された渡狸は、何なんだよと夏目に詰め寄るが、内緒と笑う夏目に唇を尖らせた。
「んー?つまりどういう事だ?」
「人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んでしまえ、という事ですよ。お兄様」
「あーなるほど。こっえー」
ああ、確かに彼にはその言葉がピッタリだな、と思いながら凛々蝶は静かに息をついた。
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牽制しまくってる残夏なんて素晴らしすぎますね……!
皆から生温かい視線で見守られつつ存分にイチャイチャしていればいいと思います!!
up:2012/07/26
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