足音が聞こえる。
聞き慣れた足音。
もうそろそろ彼は扉を開けるだろう。
その時を扉の前に立ち、じっと待つ。
足音が止まった。
ドアノブがかちゃりと動き、扉が開く。
扉が開くと同時に、手に持ったクラッカーの紐を引っ張った。
大きな破裂音に被せるようにして、口を開く。
「誕生日おめでとー☆」
扉を開ける途中の体制のまま、渡狸は目を白黒させている。
状況がいまいち飲み込めていないらしい渡狸は暫く無反応だったけれど、すぐにハッとしわなわなと肩を震わせた。
「急になんだよ!びっくりしただろ!?」
「なんだよって、渡狸の誕生日を祝っただけだけど〜?」
笑いながらそう答えると、渡狸の動きがぴたりと止まった。
きっと今日の日付を思い出しているんだろう、そんなことは視なくても分かる。
今日が自分の誕生日であることを漸く思い出した渡狸は、小さく あぁ、と呟くとボクを見た。
「ね?」
「忘れてた。あ、お前そこ自分で片付けろよ!」
渡狸はそう言うと床に散らばる色とり取りの小さな紙片を指差した。
態々言わなくても、それくらいするのにさ。
「分かってるって。あ、そういえばね」
大切なことを忘れてた。
元々それを伝える為にここに来たのだ。
「この後、皆で渡狸の誕生パーティーするから早く準備してね〜。」
「は!?」
最初は普通にお祝いするつもりだったけど、どうせなら皆で盛大に祝っちゃえと思い、渡狸には内緒で地道に準備を進めてきていたのだ。
今頃ラウンジでは、他のメンバーで最後の準備をしているだろう。
「この歳になって何でそんなガキっぽいこと…」
「そんなこと言ってぇ。本当は嬉しいく・せ・に☆」
「うるせえ!」
図星なのだろう、渡狸の顔が少し赤くなる。
ぶつぶつ文句を言いつつも、制服から普段着へと着替える手は止めない。
数分で渡狸の支度も終わり、一緒に部屋を出る。
先を行こうとする渡狸の足取りは軽くて、つい笑ってしまう。
「何笑ってんだよ。」
「ごめんごめん、渡狸が可愛くてつい☆」
そう言いながらへらりと笑うと、すぐに渡狸は顔を赤くした。
コロコロと変わるその表情は、本当見ていて飽きない。
「ね、渡狸?」
「なんだよ。」
からかわれた(からかったつもりはないけれど、彼からしたらそうなのだろう)のが気に障ったのか、その返事はどことなく素っ気ない。
「ボクからのちゃんとしたお祝いは、二人っきりになってからね。」
「は!?」
「だーかーら、簡単に言うと今日は寝かさないよ☆ってこと。」
ね?と少し首を傾げると、渡狸は耳まで真っ赤にしながら何かを叫んでいたけれど、それらを全て聞こえないフリをしてラウンジへと進む。
夜が楽しみだね、渡狸?


誕生日おめでとう
いつまでも一緒なんて無理だってことは分かってる
だからせめて少しでも長く一緒にいようね


end.




あっぷる様の渡狸誕フリー文をお持ち帰りさせて頂きました!
照れる渡狸が可愛すぎてもう……もう……!
夜は勿論美味しく頂かれて、末永く爆発してほしいです///


up:2012/10/12

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