「ん?」

 暇潰しに残夏の部屋に来ていたとき。
 ふと、テーブルにアイツの携帯が置きっぱなしになっていることに気付いた。
 ちなみに本人は現在トイレに行っている。
 ……これは、もしかして悪戯をする絶好のチャンス?

「……いっつもオレばっかアイツに遊ばれてるし……」

 たまには逆に俺が一杯食わせてやりたい。
 そうだ、待ち受けでも弄ってやろうか。
 適当に変な写真とかにすれば……
 そう思って携帯を手に取り、何気なく開いた。

「……え?」

 ぱたん。
 ……あれ? 何か今見知った顔が見えたような……
 気のせいか。気のせいだよな。
 自分に言い聞かせてもう一度携帯を開くが。

「…………」

 さらに目を擦っても結果は変わらず。
 ……うそだろ。

「なんでアイツ待ち受け俺にしてんの……?」

 つーかいつ撮ったんだこんな写真。結構恥ずかしい。
 小さな液晶に映る自分に思わず目を丸くしつつ頬を染めていると、背後でドアが開いた。

「渡狸ー? どうかしたの、そんなところで突っ立って」
「ざ、ざざざ残夏……!?」

 慌てて携帯を隠そうと手を後ろに回した。
 だけど、すぐにその手も取られてしまってはどうしようもない。

「おま……はっ放せよ!」
「やだよ。というか何隠して……」

 そこで、残夏が固まった。
 ……と思ったら、普段では考えられないスピードで携帯をひったくる。

「……渡狸……もしかして、見た……?」
「な、なんの話だ……?」

 誤魔化せる自信はなかったけど、一応しらばっくれてみる。
 視線をそらして何事もなかったようなふりをしても、案の定無理矢理目線を合わされた。

「……見たんでしょ?」

 その表情は、いつものふざけたようなものじゃなくて。
 やば、本気でまずいかも。

「……そ、その、ごめん……! 悪気はなかったというか……」

 いや、それは嘘だけど。悪気というか悪戯する気満々だったけど。
 とにかく嫌われるのだけは嫌で、必死で謝った。
 はあ、と溜め息が聞こえて身が竦む。
 ど、どうしよう。

「あーもー……渡狸には見られたくなかったのに……」
「?」

 怒ってる、わけじゃなさそう……?
 そっと様子を窺うと、残夏は片手で顔を覆って横を向いていた。
 あ、もしかして。

「残夏……照れてんの?」
「……何、悪い?」
「いや、なんか可愛いなって」
「それキミにだけは言われたくない。」

 なんだそれ。意味分かんないし。
 ……まあいいや。深く考えないようにしよう。
 それよりも訊きたいことがある。

「つーか写真なんていつの間に撮ったんだよ……」

 さっき見たのは制服姿の写真。そんなの撮られた記憶はない。
 ということは、つまり。

「? 勿論隠し撮りだよ☆」
「は、犯罪だ!」

 そうだろうとは薄々察してたけどさ、うん。
 ……でも、

「……別に、これくらい言ってくれれば撮らせてやったのに」
「……え?」

 それすら許さないほど心は狭くない。
 確かに恥ずかしいけど。

「た、ただし俺にも残夏撮らせろよ! じゃないと駄目だぞ!!」
「…………渡狸」
「うわ?!」

 手を掴んで引き寄せられて、目の前に残夏の顔。
 ち、近い近い!!
 顔が、熱くなる。

「ね、渡狸」

 やめろ耳元で囁くな!

「女装して。」
「……は?」

 耳に入った予想外の単語に、思わずぽかんと口を開ける。
 な、んだと?

「ボクのことは後でいつでも撮らせてあげるからさ。とりあえずキミの女装写真が欲しい。」
「……いやいやおかしいだろなんでそうなるつーかいつだかの文化祭の時撮ってたじゃねーかあああ!!?」
「だってアレは動画だし。というかボクメイドさんよりナース派なんだよね」
「それは初耳……ってそういう問題じゃねえ!!」
「あーはいはい。いいからお着替えしようね〜♪」

 撮らせてくれるって言ったのはキミでしょ?

 にっこり笑った残夏に、背筋を冷たいモノが駆け抜けた。
 ……教訓。後悔先に立たず。よく考えずに雰囲気で頷いてはいけません。




End




リクエストありがとうございました!!
大分方向性を間違えた気がしますが、楽しかったですすみません!
紫織様のみお持ち帰りOKです。


up:2012/03/29

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