……何がどうしてこうなった。
今日だけで何回繰り返したか分からない問いかけを、もう一度心の中で呟いた。
……その答えなんて、分かりきってるのだけど。
「ん? 渡狸、どうかしたの?」
「どうかしたの、じゃねえよ……」
そう、原因は俺の隣を歩くコイツ。
恨みを込めてじっと睨んでやると、それをどう勘違いしたのか残夏は楽しそうに微笑む。
「ふふ、楽しみだね♪ 今から行くの結構有名なケーキ屋さんなんだよ? そのケーキが半額だなんて最高じゃない?」
「そりゃそうだけどな……なんで俺がこんなカッコしなきゃいけないんだよ!?」
心からの叫びだった。道の真ん中だから思いっきり大きな声では言えないけど。
こんなカッコ……本当に最悪だ。もし事情を知らない知り合いに見られたらどうするのか。
勿論それを残夏にも伝えた。でも、コイツは「大丈夫、誰が見ても絶対キミだって分からないから☆」の一点張りで結局聞いてもらえなかった。
確かにいつもの俺では考えられない姿だけどさ……
たまたま店のガラスに映った、あまり直視したくない自分を眺める。
白いワンピースに薄い水色のカーディガン。それにヒールが高いサンダル。
以上が現在身につけているもの。……簡単に言えば、女物の服だ。
しかもご丁寧にカツラまで用意してあったから、髪は肩に付くぐらいの長さになっている。
……自分でも認めたくないけど、女にしか見えない。不良ともあろうものが本気で情けない。
チクショー。カップル割引だかなんだか知らないが、だったら残夏が女装すればよかったのに。……俺がバカだった。「デートしよう」なんて言われて、つい頷いてしまって。……一瞬でも、嬉しいなんて思って。
と、そのとき、繋がれていた手が引っ張られた。
「渡狸、着いたよ」
やっとか。
……ああもういいや。ここまできたなら潔く諦めよう。それが漢ってもんだ。
こんな恥ずかしい思いしたんだから、その分元はとらないと。
開き直ると早いもので。
「結構種類あるね〜。どれにする?」
「んー……じゃあ……」
看板の前にあったメニューを覗くうちに、頭の中は羞恥よりもキラキラしたケーキで埋め尽くされていった。
***
「ごちそうさま」
ケーキは普通に……というよりかなり美味しかった。今まで食べた中でも最上級レベルだ。人気があるというのも分かる。
「もう2つとも食べたの?」
「うん。美味かった。残夏も早く食っちゃえよ」
残夏の前にいまだ手付かずのケーキが1つ残っている。
食べるように促すと、残夏は首を振って苦笑した。
「……実は1つでお腹一杯なんだよね」
「え? ならそれどうするんだ」
「だから、」
はい。
そう言って残夏はケーキがのったフォークを俺に差し出した。
「……俺にどうしろと……」
「分かんない?……仕方ないね。早くあーんして?」
「……はあああ??!」
なんで俺がそんなこと!!?
「つーか食うなら自分で食うから!!」
「何言ってんの。カップル限定割引使うなら『あーん』は必須なんだよ?」
「マ、マジで?」
「……嘘だけど」
「……バカ! 一瞬信じそうになったじゃんか!!」
「まあそんなのどうでもいいからさっさと口開けて、渡狸」
「ふってきたのお前だろ?!」
いいかげん突っ込むのにも疲れたんだけど。
つーかなんでそんなに『あーん』にこだわるんだ。
「……ボクがなんの為にキミにそんな格好させたと思ってるの?」
人前でイチャつくために決まってるでしょ。
「……は?」
「分かったらおとなしく言うこと聞きなよ」
「むぐ??!」
ぽかんと口を開けていると、無理矢理口にフォークを突っ込まれる。
喉に詰まらせそうになりながらもなんとか飲み込んだそれは、口の中にやけに甘ったるい風味を残していた。
End
リクエストありがとうございました!!
女装個人的に大好きなので楽しかったです!
紫織様のみお持ち帰りOKです。
up:2012/03/23
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