外出先から妖館に帰ってきて早々目にした光景。
 ラウンジの中央のテーブルに、渡狸とカルタたんが座っていた。
 会話の内容までは聞こえてこないけど、カルタたんが何か言う度に頬を染める渡狸が見えて、ぎゅっと拳を握りしめる。
 微笑ましいというより、やっぱり気に入らない、という苛立ちの方が大きくて。
 このまま2人に声をかけるとつい本心が口を滑りそうで、ただ自分の部屋に急いだ。



***



「あーあ……ボクも重症だな……」

 部屋に入った途端、ずるずるとその場に座り込む。
 彼の幸せを願うなら応援しなきゃいけないのに、どうしてもできそうになかった。
本当何やっているんだとは思う。でも、無理。
……このままだと、いつか彼に無理矢理想いをぶつけて傷つけてしまうかもしれない。

「……契約を解消して、離れるのが一番いいんだろうけど、」

 他の人間が彼のSSになることすら許容できる気がしなくて、自分の身勝手な独占欲を嘲笑った。
 と、そのとき背後でチャイムが鳴って、びくりと肩をこわばらせる。
 近くに人が来る気配に気付かなかったのか。そこまで意識を取られてたなんて、らしくもない。
 だが内心は表情に出さないようにいつもの笑顔を作ると、ゆっくりとドアを開けた。

「はーい☆ だぁれ〜?」
「あ、やっぱいた」
「っ?! わ、渡狸……!?」

 そこにいたのはついさっきまで頭の中を占めていた人物で、一瞬、笑顔が崩れる。
 すぐに取り繕ったが、彼は気付いていないだろうか。

「ったく、帰ってきてたなら声かけろよな……俺がラウンジにいたの見えただろ?」
「……だってカルタたんとお話してたでしょ〜? いい雰囲気っぽかったし邪魔しちゃ悪そうだったからさ〜」

 自分で言っていてまた思い出してしまい、イライラが限界になりそうだったけど。

「はあ?! 何だよそれ!?? 別にいい雰囲気とかそんなんじゃないっつーの! ただ相談に乗ってもらってただけで……!」
「え?」

 予想外に渡狸が強く否定してきたのでちょっと驚いてしまった。照れて誤魔化すかと思ったのに。

「でも、相談って?」
「うっ……」

 急に言葉を詰まらせる彼に、さらに疑問が膨らむ。
 ……ボクに言えないような相談なの?
 また、苛立ちがぶり返してきた。それが爆発する寸前、渡狸がふと決意したようにボクを見上げる。

「お、お前についての相談だよ!! 悪いか!」
「……は?」
「お前が、最近何か様子おかしい気がして……だから……」
「……ボクの心配してくれてたってこと?」

 かあ、と頬を染める渡狸。
 図星? 何コレ超可愛い抱き締めたい……いや、落ち着けボク。急にそんなことしたらきらわれ……
 軽く混乱する中、追い打ちをかける一言が、

「なのに、勝手に勘違いとかしてんじゃねーよバカ!! 大体、カルタは大事だけど俺が好きなのはお前で……!」

 …………。
 …………???
 幻聴かな? 今ものすごく都合のいい台詞が聞こえた気がするんだけど……

「あ、の、渡狸? 今、何て、」
「あーもー! 一回で分かれっての!! だーかーらーっ好きだって言ってんだろ残夏!」

 やけくそのように叫ばれた言葉を理解したとき、もう駄目だと思った。
 こうなれば溺れるしかない。




End




リクエストありがとうございました!!
単に独占欲が強いけどそれを我慢している残夏になった気がします……
琉月様のみお持ち帰りOKです。


up:2012/05/03

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