V






『熱があるの。だから悪いけど今日は休ませてもらうわ』




優秀な部下である波江が本日は休むと連絡を寄越してきた。

今までなら波江が休もうがたいして問題はなかったのだが、今は架音がいる。

今日の仕事をどうしたものかと臨也は架音の髪を二つに結ながら考えていた。


「こういう時に限って直接手渡しの仕事…しかも池袋…。」

「いざやママ?」

「渡すものだけ渡してすぐに帰れば一時間もかからないよね…」

「…???」

「カノ!少しだけお留守番してくれるかい?」

「カノはいっしょにいっちゃだめなの?」

「ごめんね、お仕事なんだ。」

すぐに戻ってくるからお願いと言えばコクりと頷く架音。


それから着替えてウィッグを被り男の格好をして玄関へ立つ

「じゃあ行ってくるねカノ。すぐに帰ってくるよ」

「……い、いってらっしゃ…い」
「……!?」


しゅ、しゅんってしてる!さびしそうっ!そんな顔されたら一人にしていくなんて無理だ!

聞き分けがいい架音は臨也が引き取ってから我が儘を言ったりしない。かなり聞き分けのいい子だった。
一緒に行きたいとは言わないものの表情が一緒に行きたいも語ってる。

「……カノやっぱり一緒に行こうか」

「いいの?」

「うん。ただしいくつか約束しようね」

結局、架音に甘い臨也。
池袋に行くにあたり架音に男装している間は臨也をママと呼ばない、関係を聞かれたら遠い親戚の子と答えるよう、最後に金髪のバーテン服写真を見せ、静雄を見たらすぐに自分から離れるようにと約束させた。




当初の予定通り池袋で依頼人に報告書を渡し、少しでもはやく新宿へ戻ろうと臨也は架音を抱えて極力近道を通る。

しかし悲しいかな、近道と裏道を歩いていた臨也の背後から聞きなれた低音が響いた。

「いーざーやーくーん」

振り替える前に臨也は架音を物陰に降ろすと直ぐ様ポケットからナイフを取り低音の持ち主、静雄へと振り替えった。


「やぁ、シズちゃん。仕事はいいのかな?上司待ってんじゃないの?生憎おれはシズちゃんに構ってる場合じゃないんだよね。見逃してよ?」

「ナイフ向けて見逃せとはずいぶんな物言いだなあ?」

じりじりと距離をつめてくる静雄。臨也は架音に被害が出ないようにと位置を調整していく。



「いっ……」

「よそ見とは余裕だな」

臨也がチラリと架音の方を気にしていれば距離をつめた静雄が臨也のコートの胸ぐらをつかみ壁にドンっと押しつける。

衝撃でナイフを落とした臨也はもう片方の手で新たなナイフを取り出そうとするが静雄がその手をギリリと掴みあげる。


「いっ…あ!ちょ、シズちゃん痛いっ、手首折れるっ!!」

「あぁ?手前の手首がどうなろが俺には関係ねえよ。」

「げ、マジ?」

「どうだろうな」

ニヤリと笑った静雄に臨也は冷や汗が伝うのを感じる。



「いざやママいじめちゃダメっ!!」


「あ?」

静雄がズボンをぐいっと引っ張られて視線をさげると物陰に隠れていたはずの架音。
静雄と目があうとビクリと震えみるみるうちに目に涙が溜まっていく

「ぅっ……ふぇ」

「あーっ!架音!!」

「ふぇぇええん!!!」

「シズちゃんどいて!」

「ぇ、ああ?」

泣き出した架音にぎょっとなった静雄が臨也の拘束を解けば臨也が直ぐ様架音を抱き上げる


「カノ?ごめんね。怖かったよね、もう大丈夫だよ」

よしよしと臨也が架音の背中を撫でれば架音が臨也にぎゅーっとしがみつく。

そうやってしばらく臨也が架音をあやしていると静雄がおずおずと声をかけてくる。


「臨也お前…その」

「……カノは娘だよ。」

義理にはなるけどと付け加える臨也がようやく落ち着いたらしい架音に挨拶できるかいと促す。

「……いじめない?」

「大丈夫だよ。ね、シズちゃん。」

「おう…」

ね、と有無を言わさない表情の臨也に静雄が頷くと臨也に抱えられたままの架音がじっと静雄を見たあとおずおずとおりはらかのん5さいです。よろしくおねがいします。と言えば静雄が律儀に平和島静雄ですと挨拶しかえす。


くりくりと赤い瞳があまりに臨也と似ていて静雄は臨也と架音を見比べ、臨也に似てるけど本当に血は繋がってないんだよねと呟く。

「あとよ……」

「何?」

「ママって言ってたよな」

架音が静雄にいじめちゃダメといったときに臨也ママと言ったことをしっかりと聞いていた静雄が臨也に問い掛ける


「……気のせいじゃない?さて帰ろっかカノ」

くるりと背を向けた臨也の肩を静雄が逃がすかとがっちりと捕まえる。


「……しっかりと説明してもらうぜ」










*****


「着替えてくるから待ってて。」


あの場で説明するわけにはいかないということで臨也のマンションに場所を移した一行


帰ってくるまでに疲れて寝てしまった架音を寝室に寝かせ、お茶を用意した臨也は少し緊張した様子で一旦奥へと引っ込んだ。

それから数分後再び現れた臨也に静雄が固まった。


「………い、ざや?」

「……うん」

胸辺りまである黒髪に黒のベロアワンピース姿の臨也に静雄が思わずサングラスを外してその姿を確認する


「見ての通り折原臨也は正真正銘女だよ……」

それから少し緊張した面持ちで臨也は学生時代面白そうだからと男装を始め、現在は仕事柄男の方が都合がよいからと仕事の時のみ男装していることを説明した。


「女…そうか女か…」

「シズちゃん?」

話を終えたとたんに静雄がぶつぶつと呟きはじめる。

そして臨也が声をかけると静雄がよしと立ち上がった。


「手前が女なら別に悩む必要もねぇよな」

「……?」

「臨也!」

「は、はい…」

臨也の前に膝をついた静雄が臨也の両手を取る


「好きだ。俺と付き合え」


「へ……し、しずちゃん?」


「今すぐ返事しろとは言わねぇ。けどせめて来週くらいまでには聞かせろ…待ってっから…」



全く持って予測不可能なタイミングで告白してきた静雄に臨也の思考が完全に停止して目をぱちくりさせる。

思いを告げた静雄は立ち上がると本気だからなと付け加えてマンションを後にした。


残された臨也は架音が起きてくるまでの間、ひたすら固まっていたのだった。





おわり
………………………………………あれ、どうしてこうなった?
急すぎる静雄の告白。好きなやつにはちょっかいかけたいから追い掛け回す。


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