A

とある日曜の午前10:00


2日前に臨也は長年の宿敵であり思い人であった平和島静雄に己が正真正銘の女だということがばれた。二日間家に引きこもりあーだこーだ悩んでようやく今日、静雄に事情を話す決意をした。

黒を基調にゴシック調の育ちのよいお嬢様のような格好の臨也は静雄の住むアパート前でかれこれ10分ほど呼び鈴を押そうとしては止めるという行為を繰り返していた。

「えーい、もうなるようになれ!!俺は折原臨也だ!!」

ようやく呼び鈴を押せば10秒ほどしてガチャリと扉が開かれた。

「………」

「……っぷしずちゃ寝起き!?」

いかにも寝癖きですと言わんばかりに髪を跳ねさせジャージで出てきた静雄に、緊張しまくっていたはずの臨也は大声で笑う。てか、ジャージとか…とひぃひぃと苦しそうに笑う臨也に対し静雄は臨也を凝視したまま固まっていた。

なんとか笑いが納まると臨也は左手に持っていた白い箱を静雄に押し付け本題を切り出した。

「うん、いろいろと話にきたよ」

「…少し待て。3分…いや2分!」
臨也を玄関に放置し、静雄は急な訪問に慌てて部屋を片付ける。2分なんてたかが知れているのでとにかく物を押し入れに押し込み、いかがわしい雑誌やDVDが取り残されていないか見渡す。

「よし……。臨也、あがっていいぞ。」

「別にシズちゃんの部屋が汚くても気にしないのに…」

「俺が気にするんだよ。」

こたつの前に臨也を座らせ静雄も対面する形で腰を降ろす。
「あ、シズちゃん。あれ中身プリンだから冷蔵庫。」

その言葉に静雄はプリンの入った箱を冷蔵庫に押し込みに行く。
白い箱の中にはカップに入ったプリンが5つ入っている。お店のモノではない臨也の手作りプリンである。

(手作りっていったら食べなそうだけど、この分ならどこの店とか聞かれなそうだね…。)

静雄に店を聞かれてしまったら素直に手作りだなんて言えずに悪態をはくだろうと危惧していた臨也は冷蔵庫に箱を入れて戻ってくる静雄にほっとする。



「じゃあ…先ずは俺の父さん達のことから話さないといけないね。」


臨也の父、折原四郎は華族の末裔でる折原本家の人間である。姉の一加(いちか)、兄の聡二(そうじ)、双子の姉の三葉(みつば)、そして四郎の4人兄弟である。現在本家は長女の一加が動かしている。四郎は臨也の母である響子とともに貿易商に努めている。問題となるのは臨也の母である響子だ。外部の人間である響子は四郎の見合い相手として折原家に招かれた。臨也そっくりな響子は当時艶やかな黒髪を腰まで伸ばし艶やかな着物を身にまとい、大和撫子という言葉がぴったりだったらしい。性格は言わずもがな臨也の母親だと納得するくらい気が強く肝が座っていたらしい。そんな響子に当然四郎は惹かれたがこの時既に婚約者がいた次男の聡二が響子に一目惚れしつしまったのだ。聡二は気が強く対する四郎は穏やかな性格をしていた。響子は優しく温かな四郎を選び婚約した。聡二も当時の婚約者と結婚し子を設けたが、響子のことが諦めきれていないらしくたびたびアプローチしていたらしい。数年後四郎と響子が結婚した。それでも未練の残る聡二は響子似の女の子が生まれたら自分の息子、昴と結婚させようなどと言いだしたらしい。
折原家はもともと一族の血を重んじているため一族同士での結婚は珍しくもない。そのため臨也は生まれて間もなくその身を守るため男として生活させられた。四郎と響子は臨也のためとは言え、男として生活させることに抵抗があったため本家からは離れて暮らし人目の届かない自宅や旅行に行く際には本来の性別として生活させてくれた。後から生まれた双子達は従兄弟にあたる昴とは大分年も離れていたし何より四郎似だったので大丈夫だろうと思われた。案の定聡二は双子に興味は示さなかったらしい。響子似の臨也は聡二にえらく気に入られて女の子なら…と何度も聞かされたのを覚えている。


「と、まぁこんな感じなんだけど……」

「あー…つまりは政略結婚させられないように男装してるってことか?」

「今は情報屋として男の方が便利っていうのもあるけど…。ってシズちゃん?」

ガクリとうなだれている静雄に何でシズちゃんが落ち込んでんの?と臨也が首を傾げる。

「その…悪かったな」

静雄のその一言に臨也はああ、やっぱり…と表情を曇らせた。女である臨也を追い掛け回し何度も怪我をさせていることを詫びているのだと臨也は瞬時に理解する。宿敵折原臨也としての価値は完全になくなったのだ。折原臨也というただの一人の女になりざかったのだ。新羅には新しい関係を築けばいいと言われたが、そもそも新しい関係がどんな関係なのか、どう築くのか分からない。

「平和島静雄の宿敵折原臨也は終了なんだね……」

自分で言って泣きそうになり、やばい…と、臨也がじんわりと溜まっていく涙を耐えるように唇を噛みしめて俯けば、静雄の手がすっとのびてきて、たまった涙を拭う。臨也が顔を上げれば少し困ったような顔をした静雄がいた。

「泣くほど嫌だったのかよ…」

臨也の真意を知らない静雄は単純に臨也が今までの事が嫌で解放されると感極まって泣いていると思っているらしい。

「そ、だね…シズちゃんてばゴリラみたいに追っかけてくるんだもん…」

「だから悪かったって……」

「う、ん………」

「………」

「………シズちゃん」

沈黙が堪え難くて何か話題をと、臨也は視線を泳がせる。


「鍋、したいな…」


視線に入ってきたチラシを見て思わず口にしたのはよりによって『鍋』だった。



つづく
………………………………………キーアイテムはコタツです。存在感薄いですが静雄宅はちっちゃいけどコタツがあります。
どうでもいい裏設定。折原一族は双子が多い。三葉と四郎。九瑠璃と舞流。

[ 60/103 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -