ハジメテを君と@


「っ…、きゃぁぁぁあ!!!」


バチィィイン!!!

人のいない路地裏、小気味よい音をたてて臨也は悲鳴と共に静雄の頬を平手打ちした。



…………ハジメテを君と…………


高校時代から追い掛けっこを続けていた静雄と臨也。1ヶ月前に成人式を終えた二人は今日も昔と変わらず池袋の街で盛大な追い掛けっこ繰り広げていた。
大通りを抜け人気のない路地裏に入り込み静雄がいよいよ臨也を追い詰めた。臨也のシャツを掴みこめかみをピクピクとさせる静雄に臨也は降参とばかりに両手を上げていた。しかし臨也が謝ってあげるから離してよ。と上から目線で言葉を発したと同時にキレた静雄は臨也のシャツを掴む右手に力を入れふざけんじゃねぇえ!と振り下ろし、見事に臨也のシャツを引き裂いていた。

引き裂かれた服の下から現れたのは平らな胸ではなく白い布。シャツを下に裂かれた際、指がひかかったのか白い布、所謂さらしもすぐりハラリと落ちた。ポロリ…まさにそんな感じで静雄の目の前に折原臨也の豊満な胸が晒されたのだった。
数秒の後、冒頭のように我に帰った臨也は静雄に平手打ちを食らわせた。
その場にへたりと座り込み羞恥からふるふると震えながらコートの前を掻き合わせる臨也。静雄は今しがた見た光景に赤くなりつつ座り込んだ臨也を見て呆然とする。
この時すっかり混乱していた静雄は何を思ったのか座り込んだ臨也を横抱きに抱えあげ、親友の闇医者岸谷新羅のもとへと駆け込んでいた。



「新羅!大変だ!!ノミ蟲が女になっちまった!!!」


新羅宅の玄関を見事に蹴破って入ってきた静雄の第一声に、新羅とソファに座りテレビを見ていたセルティが大量の影を吹き出して驚いた。
新羅の方は至って冷静でへぇとつぶやくだけだった。

「とりあえずさ。臨也降ろしてあげなよ。」

放心状態だよ?と新羅が臨也を指指せば、静雄が臨也をそっと降ろしてやる。降ろされた臨也は新羅の姿を確認するとぶわわっと涙を零し始めた。

「しっ、しんらぁぁっ!!シズちゃんがっ!!シズちゃんにぃっ!!ど、どうしようーっ!!」

「あー…はいはい。とりあえず臨也はお風呂かしたげるからシャワーでも浴びて落ち着いてきなよ。上着もなんか用意したげるから。」
「うっく…そうする」


静雄同様混乱していた臨也の背を押して浴室の方に案内すると戻ってきた新羅は再びソファに腰を降ろしてまあ、座りなよ。と笑顔で静雄にうながした。

「の、ののノミ蟲にでかい胸が……」

「まぁ、あるだろうね」

「やわらかそうな胸が……」

「うん、臨也女の子だしね」

「お前の変な薬飲んだんだよな」
「そんな便利なものあったら面白いけど、残念ながらないよ」

「じゃ、じゃあ……」

「だから臨也は正真正銘女の子だよ。」

キミと出会う前からずっとね。と新羅がつけたせば頭がキャパを超えたのか静雄は頭を抱え込む。新羅の横ではセルティがせわしなくPDAを叩きどういうことだ?!と新羅を問い詰めていた。

しばらく落ち着いた静雄が一つの疑問を口にする。

「なんでお前は臨也が女だって知ってたんだよ…」

「え、そりゃあ私は臨也と会った中学時代から闇とはいえ医者としてすでにいろいろやってたしね。それにいくら男装してても健康診断とか水泳とかの問題あるだろ。そういう時に塩素アレルギーですとか嘘の診断書書いてあげてたの僕だし。」

「そうなのか…。それよりあいつなんで男装なんかしてんだ?」

静雄の言葉にセルティもない首をふって同意する。

「うーん。それは直接臨也から聞くべきなんじゃないかな?臨也のプライバシーに関することだし。」

まぁ、好きで男装してるわけではないってことは言っとくよ。新羅がそう付け足そうとした所で、シャワーを終えた臨也がてちてちとリビングに戻ってきた。

どこかしょけだ様子の臨也はしっからとドライヤーで髪を乾かしたらしく頬が上気しているのみだった。静雄の隣に無言で腰を降ろせばあんぐりとした顔で自分を見つめてくる静雄に臨也は右手で持っていた何かを静雄に見せた。

「普段はウィッグ。こっちが地毛だから。」

ウィッグをとった臨也は胸元まで伸びたきれいな黒髪をしていた。静雄は臨也のことを男にしてはやたら綺麗な顔だし細いぐらいにしか思っていたなかったのだが改めてみるともう女にしか見えなかった。
静雄の視線に臨也は居心地が悪そうに視線をそらす。


「静雄も臨也もさ、今日のところはお互いにいろいろ思うことや考えたいこともあるだろうし日を改めてゆっくり話たらいいと思うよ。」

無言のまますごす二人を見兼ねて新羅がそう告げれば二人は新羅を見てコクりと頷く。静雄の方はそのまま立ち上がり帰る…と言って新羅宅を後にした。臨也はそのままソファに座ったまましょんぼりとしていた。

セルティが新羅と臨也の2人分のお茶を用意して臨也に差し出せば臨也がポツリと口を開いた。


「ばれちゃった…。」

「そうだね。」

「どうしよう。新羅シズちゃんに女だってばれちゃったよ。」

今にも泣き出しそうな臨也にセルティがおろおろとするが新羅は冷静に対応する。

「よかったじゃないか。キミずっと静雄のこと好きだったんだし。これからは女として見てもらえる。」

「ただの女じゃ意味ないよ。シズちゃんはきっと俺が池袋に行ったって、女子供に手は出せないからもう標識振り回して追っ掛けたり殴りかかったりはしないよ。男の折原臨也じゃなきゃシズちゃんと関わる理由なくなっちゃうよ」

高校時代から静雄とは犬猿の中を続けているが臨也はずっと静雄が好きだった。好きだと気づいた頃には既に険悪な仲になっていたし男装している以上好きだと伝えることはできなかった。思いは伝えられない、だけどせめて関わりだけは持ち続けたい。そんな思いから今日まで静雄とのやり取りが続いていた。女の自分では静雄と関わっていくことができないと臨也は悲嘆する。


「確かにばれた以上は今までみたいな関係は無理だろうね。」

新羅の言葉に臨也がうっと瞳を潤ませたが臨也が泣き出すより前にさらに新羅が言葉を続ける。

「けどさ。新しい関係を作っていけばいいじゃないか。」

「新しい関係…」



不安そうにする臨也に新羅は別にこれまでのことを否定するわけではなくあくまでも新しい関係を築いていくチャンスだとフォローする。


頑張ってみる…臨也から新羅にそうメールが来たのはそれから2日目の日曜の朝だった。



続く
………………………………………とりあえずセルティみたいに出るトコは出てる臨也さん。なんで男装してるのかは次になります。臨也さんはひたすら乙女。静雄も臨也も恋愛経験値は低いみたいです。岸谷先生様様。

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