豪吹*軍パロ(未完)

軍パロ

大尉豪炎寺
軍曹吹雪



死ぬのは怖くない。

いつ死んだって構わない。

ただ、最後の一瞬まで一人でも多くの敵を倒す。

それが唯一の存在理由であり、僕の存在証明――。


********タイトル


雪に閉ざされた北方の地、白恋。

近年、戦火がもっとも激しく北に駐屯する軍が手を妬いているのを見かねて中央から援軍が送られた。

豪炎寺大尉率いる総勢200人の中隊、通称紅蓮隊。

過去に中央での大きな戦があった。当時まだ伍長であった豪炎寺は、指揮官を含めた誰もが敗北を覚悟した圧倒的不利な戦況下で、自らが率いる分隊わずか10名あまりでその劣勢を覆し見事勝利へと導いた。圧倒的な戦闘力に冷静な判断力と的確な指揮、他者を引き寄せるカリスマ性。それらを兼ね備えた豪炎寺の働きは軍上層部の目に留まり戦後、異例の若さ、そして早さで昇進を続けて大尉まで上り詰めた。そして炎の能力者でもある彼の戦い様から彼の率いる部隊は紅蓮隊と呼ばれるようになった。

中央で英雄と名高い紅蓮隊を呼び寄せたことは単純に戦力増加に限らず兵の士気をあげるという意図も含まれていた。200人の兵の先頭に立ち白恋入りした豪炎寺の放つオーラはそれだけ圧倒的なのだ。


「本日付けで中央司令部からの命を承け、豪炎寺大尉以下200名。白恋の地へ着任致します。」

北軍の最高司令である少将の執務室で数人の部下を連れて着任の挨拶に訪れた豪炎寺。彼の着任を待っていたとばかりに少将は席を立ち歓迎の意を込めて握手を求めた。

「いや、まさか本当に君が来てくれるとは思わなかったよ。紅蓮隊を中央司令がこんな北の地に送ってくれるとは…本当によく来てくれた豪炎寺大尉。」

「北を落とされるのは避けたいですからね。我が隊も尽力させていただきます。」

「うむ。時に君は炎熱系のダブルSランク能力者とも聞いている。この雪原の地でその能力存分にいかしてくれたまえ。」

「はい。それでは失礼いたします。」

一通りの挨拶や軍務のやり取りをして執務室を後にしようとする豪炎寺。それを少将はふと、思い出したように引き留めた。


「君に一つ、頼まれてほしいことがあるのだが…。」


少将曰く、頼まれ事とは、とある兵士の面倒を見てほしいとのことであった。
その兵士というのがどうも厄介者らしく、手に追えないそうだ。戦闘能力は大変優秀だが作戦は無視、上官の命令にも従わず戦場で好き勝手に動く
とんだ一匹狼らしい。
敵陣に単身で切り込み、舞うように剣をふるい、最後には敵の返り血にそまった軍服で立ち尽くす冷徹な姿と氷の能力からついた異名は氷人形ーアイスドール。

切り捨てるにしてはあまりにも高い能力を保持しているため、できるならば立派な戦力として役立てたい。ようは性根を叩き直してくれということらしい。





「もっとゴリラみたいな筋肉隆々の人が来るかと思った…。」

「貴様っ、大尉になんと無礼な!」

「いや、構わない…。」

開口一番に上官への挨拶ではなくそのようなことを口走った噂の氷人形こと吹雪士郎軍曹は豪炎寺の姿を見て姿勢を正した。
中央から英雄と名高い豪炎寺が来ることは軍内部でも大きな噂であったが、吹雪としては暑苦しい大男や無駄に煩い熱血漢タイプの男が来ると思っていた。それとは真逆に逆立てられた髪に知的で精悍な顔立ち、極めつけに他を圧倒するオーラだ。ついつい本音が出てしまったのだ。

「失礼しました…初めまして豪炎寺大尉。吹雪士郎軍曹です…。」

「豪炎寺だ。今後暫く第8分隊と君の第5分隊は俺の中隊の指揮下に入ってもらう。」

「了解しました。」

眼力で人を殺せるんじゃないか…そう思えるくらいに威圧感のある豪炎寺に吹雪は身を固くしたまま敬礼した。

一方の豪炎寺は冷徹な氷人形と呼ばれる吹雪が予想よりも遥かに小柄で中性的な姿をしていたため多少呆気に取られていた。しかし初対面の上官に対してあの言葉、確かに北軍での問題児としては間違いないようである。

「3日後、北西の砦を落とす。明日以降の指示を追って待て。」

「はい…。」

豪炎寺が部下を引き連れ立ち去るのを見送ると吹雪は緊張していた身体を解かすようにゆっくりと深呼吸をした。普段はどんなに厳つい上官が相手だろうが臆することはないだけに吹雪自身豪炎寺相手に気圧されていたことに戸惑っていた。





翌日、砦攻略に向け中央と北の兵が互いの能力や連携の取り方を決めるべく行われた合同演習を、こともあろうに分隊長である吹雪はすっぽかし豪炎寺の眉間に深い皺を刻むことになった。

すっぽかしただけでも減俸ものだというのにさらに演習中の様子を周辺建物の二階の窓枠に腰掛けのほほんとお茶をすすりながら見いたのだ。それに気がついた豪炎寺を見ても、やばい!と逃げるでもなく不敵ににっこり微笑んだのだ。豪炎寺の隣でその様子を見ていた部下は上官への不敬罪だ!とたいそう腹を立てていた。

豪炎寺も吹雪の態度に今すぐにでも降りてこい!と説教をしたいところであったが2日後の作戦の指揮官である自分の役目を冷静に考えそれを見逃した。もちろん後程しっかり話をつけると心に決めてからである。
北軍の兵達の個人資料に目を通し、一人一人を実際に演習中に確認した豪炎寺は残りの指導を部下に任せるといつの間にか二階の窓枠から姿を消した吹雪に説教をするべく演習場を後にした。

先程の部屋にまだ残っている可能性もあるのでとりあえず吹雪のいた二階の部屋を目指す。演習場の周辺建物は食料や物資の倉庫として使われているため人気はほとんどない。居住区、軍本部ならば通路まで暖房が行き届いているのだがこの建物は人が常駐することはないため暖房設備は一部の部屋にしかない。長居はしたくない、そう思った豪炎寺の歩みは早く、カツカツと通路を踏みしめる小気味良い音が建物に響き渡った。

吹雪がいたのはこの辺りの部屋だっただろうか、そう想い一度歩みを止めたと同時に数メートル先の部屋から一つの衝撃音と複数の叫び声があがった。

「一体、何の騒ぎだ!」

「ひ、豪炎寺大尉っ。」

立ち入った部屋の中を一瞥すれば状況は明らかだった。怯える3人の兵に囲まれる形で床に転がるのは豪炎寺が探していた吹雪士郎。むき出しの上半身に拘束された手首、誰がどう見ても襲われていたのだろう。しかし先の悲鳴は複数、つまり吹雪のものではない。よく見れば部屋の隅にもう一人伸びている兵士がいる。吹雪の瞳が蒼い光を灯しているところを見れば吹雪が氷雪能力でこの兵を伸したのであろう。能力を発動すればそれに応じて瞳が輝くのだ。

「これは一体何の騒ぎだと言っている。」

「ひっ…。」

「す、すみません!!」

鋭い眼光に睨まれ、たまらず逃げ出した兵達を追うことは敢えてしなかった。
それよりも床の上で転がったまま腕の拘束を解こうと奮闘している吹雪へと近づく。床に散らばったボタンが生々しい。

「大丈夫か?」

「見ての通り。何かされる前に能力でのしてやったよ。」

「戦闘、訓練時以外の能力の使用は厳禁だ…と言いたいところだが今回は見なかったことにしてやる…。」

両腕をしっかりと縛り上げたネクタイに苦戦する吹雪の身体を起こして腕の拘束を解けば灰碧の瞳が豪炎寺を見上げた。

「…見なかったことにする代わりに君もヤらせろとか言うわけ?」

そう吐き捨て、はっと自嘲気味に笑う吹雪。解放された両腕は拘束を解こうともがいたために赤く擦れており、さらに身形を整えようとするにもボタンがちぎれ布自体もひきさかれた状態の衣服では白い素肌を隠すことは出来ずにかえって痛々しく見える。

「馬鹿なことを言うな。」

「あ…。」

警戒する吹雪の心配を余所に豪炎寺は自分の軍服のコートを脱ぐとそれを吹雪の頭へとかける。その行動が予想外だったのか吹雪はポカンとした表情になる。

「ともかく、風邪を引く前にそれを着ておけ。立てるか?」

「…はい。」

「ついてこい。」


吹雪を引き連れた豪炎寺は居住区に与えられた私室へと戻る。
ソファ代わりにと座らされたベッドで吹雪は擦り傷のできた両手首を消毒された後、ご丁寧に包帯まで巻かれ、さらに温かいココアを渡されていた。居心地の悪そうな吹雪を見下ろす形で正面に立った豪炎寺は吹雪の分とは別に煎れたコーヒーを片手に先程の騒ぎについて吹雪へと確認をとる。

「さっきの部屋で演習眺めてたら、あいつがらやって来て僕のこと押さえ込んで上半身ひんむいてくれた上に縛り上げてきたから、僕はご丁寧にそれ以上何かしようとしたらブッ飛ばすよ?って警告してあげたんだよ。」

「それで、文字通り能力を使ってブッ飛ばしたわけだな…。」

「立派な正当防衛でしょ。」

殺さないよう手加減したから感謝してほしいくらいだ、と吐き捨て吹雪はココアの入ったカップを冷えた指先を暖めるように両手で持ち直す。

「資材室で俺に言った言葉の口ぶりからして、こういったことはよくあるのか?」

「まぁ、ね…。どうも僕はこの顔立ちだから弱そうに見えるらしくって。でも全員返り討ちにして二度とそんな気が起きないようにしてあげたけどね。その噂もあって最近じゃ僕に手出そうなんて思うバカはいなかったんだけどね。」

「そうか。」

「大尉はそういうことなさそうだよね。」

吹雪の問いかけに豪炎寺はピクリと眉間に皺を寄せ複雑そうな顔をした。こんな怖そうな人を襲おうとする強者がいるのか、という吹雪の考えとは正反対の答えを豪炎寺は口にする。

「一回で構わないから抱いてほしいとか、性欲処理の人形でいいから抱いてくれと迫ってきたやつなら何人かいたな…。」

「うわぁ…。」

「しかも上官もいたな…。」

当時のことを思い返してげんなりとした表情になる豪炎寺。この話は終わりだとばかりに次の話題へと話を移すべくところで…と切り出す。


「吹雪。お前は俺を含め、上官に対していつもその態度なのか?」

「そうだね。」

「こちらでは見逃されているようだが、お前のその態度は本来ならいつ首が飛んでもおかしくない。これからも軍で生きていくなら嘘でもいいからそれなりの態度を取るようにしろ。」

「うん。」

「…お前、わかってないだろ。」

「わかってるよ。でも大尉は見逃してくれるんでしょ? 」

この上官は、ただ偉そうに椅子に座って命令を下すだけの連中とは違う。言葉遣い程度で事を荒立てたりはしないと吹雪は思う。

「今回限りだ、ただし!…明日の演習には必ず参加しろ。いいな。」

「はーい。」

悪戯の成功した子供のように笑みを浮かべた吹雪に豪炎寺はため息をつき、いろんな意味で大物で正真正銘の問題児だな…と頭を抱えるのだった。


そして問題児らしく二日後の砦攻略戦で吹雪は問題を起こすのだった。




ーーー白恋北西の砦攻略戦

豪炎寺直属の兵を中心とした中隊が順調に敵戦力を落としていく中本陣で総指揮をとっていた豪炎寺のもとへ一人の兵が慌てた様子でやって来た。

「隊長!第3小隊が押されています。指揮系統が上手くいってないようで…。」

「何があった…。詳しく状況を説明しろ。」

「はい、分隊長の吹雪士郎が小隊長の命令を無視して敵陣に一人突っ込んでいったらしく、残りの兵が混乱し、他の分隊まで混乱が伝わりそこから陣形が崩れてきているようです。小隊長が建て直そうとしているのですが命令が伝わらないくらい戦況は混乱しておりめちゃくちゃです。」

「そうか。」


慌てることなく冷静に状況を分析し豪炎寺は周囲へと指示を出す。一通りの指示を出し終えると愛用の剣を鞘から抜き去った。

「俺が前線へ出て直接指揮を取る。」

「はっ!了解しました。」


その場を部下に引き継ぎ、豪炎寺は前線へと走った。

襲いかかる敵を次々となぎ倒し、陣形が崩れ苦戦する味方達をも追い抜き敵のみとなった眼前に剣を構える。

迫りる大勢の敵へ向けて構えた刀身に己の能力である炎を纏わせる。剣を一閃すれば、紅蓮の炎が地を走り前方の敵戦力を一掃した。

混乱していた兵たちは豪炎寺の姿を目にすると「豪炎寺大尉だ」「大尉が来てくれた」と口々にし、安堵の息をつく。


「今すぐ陣形を立て直すぞ!傷が深いものは下がれ、第2小隊から兵を回して穴を埋めろ、第5分隊は守備範囲を6分隊側まで広げろ!それから第6分隊はこのまま俺について来い!敵本陣へ切り込む。」

一瞬にして劣勢を覆した豪炎寺の姿を兵達は戦神をあがめるように見る。

彼がいるから大丈夫だ、負けることなどない、存分に戦える!と兵達の士気は高まる。



「すごい…。」

敵陣に一人突っ込んで単独で戦闘を行っていた吹雪のすぐ側ではいつの間にか少数の兵を率いた豪炎寺にが上がってきておりその戦いぶりに思わず吹雪は目を見張った。

切れ長で漆黒の瞳は、今は炎熱能力を発動させているためは深紅に染まり、普段の数倍凄みが増している。

これが中央で英雄とまで崇められた紅蓮隊の総隊長、豪炎寺修也…。今までに会った誰よりも強い。そう確信せずにはいられない圧倒的な強さに吹雪は身震いした。


「吹雪士郎!ついてこい!」

豪炎寺の命令に身体は自然と動き豪炎寺をサポートするべく地を蹴って剣を振るっていた。
互いにどう動けばいいかが自然と分かり、戦場をねじ伏せる。

豪炎寺の炎熱に吹雪の氷雪、正反対な能力にも関わらず二人の力は心地よい程に調和していた。

今度は敵軍が劣性を強いられるようになるにつれ、次々と投降していく。進軍を開始して砦を完全制圧するまでにかかった時間は、途中の劣勢が嘘のように驚くほど短かった。





ぱしんー…。

制圧を終えた砦内の一室に乾いた音が響き渡った。

「っ…。」

「何故、命令を無視した。」

呼び出されて早々に頬を打たれ吹雪はキッと豪炎寺を睨む。


「別に、作戦は成功したからいいじゃん。」

「結果として予定外の怪我人を多く出すことになった。」

「そんなの彼らが弱かっただけだ。」

「お前の勝手な行動は味方はおろか自分自身すら命の危険に晒している。」

「死ぬのが怖くて軍人なんてできるものか。」

「生き抜く覚悟の無いものに戦う権利などない!ましてやお前の身勝手さに振り回されるほど部下の命は軽いものではない。」

あくまでも自分は悪くないと言い張る吹雪に豪炎寺は怒気を含んだ声でなお吹雪を責める。

「皆、国や家族、なにかを守るため戦っている。死ぬための戦いではないということをしっかり認識しろ。」


「そんなの…、そんなの君がなにもかも持っているから言えるんだ!!僕には帰る場所も、守りたい人も、何一つない!生きる目的なんかない!」

そんな僕が何のために戦えと言うのだ、と吹雪が声をあらげる。

「失うモノなんて何もない、だから……死ぬのなんか怖くない。」

もうこれ以上話すことなどないと吹雪は部屋を後にする。


「あんな泣きそうな顔で怖くないと言われてもな…。」

先ほどの吹雪の剣幕には正直驚いたものの最後の泣き出しそうな表情がどうにも腑に落ちない。決意ではなくまるで自分に言い聞かせるような物言いだったと豪炎寺は考える。

豪炎寺が戦場で背中を預けたときにも感じたことだが吹雪の戦い方はむしろ誰よりも生に執着してるようだったのだ。

倉庫で助けた時といい今回といい、全くどこか危なっかしくてほっとけない奴だ…豪炎寺は吹雪の出ていった扉を見つめながら思うのだった。



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