冷え性にとって、冬なんて最大の敵だ。 着込んでもなかなか暖かくならないし、手足は氷のように冷たくて寒いを通り越してむしろ痛い。
そういうわけで… 私は冬が大の苦手だ。

「ん…ぅ……さむい。」

只今の時刻は午前2時 。
1時間ほど前に寝ようとベッドに入り布団を被ったものの、身体があったまる気配は全くなく、ついに私は起き上がった。

「……。」

「すぴー……。」

ベッドの上から下を見下ろせば、冷えとは無縁だと言わんばかりに布団で熟睡しているシズちゃんの姿。

貧血で倒れてシズちゃん宅に担ぎ込まれ介抱された私。自宅に帰ろうか…と思い始めた頃を見計らったかのように部屋にやって来たシズちゃんの母親に『今日は遅いから泊まっていきなさい。体調もまだ悪いんだし無理はだめよー』と、勢いに押され、今日はシズちゃんの家に泊まることになった。…が、いざ寝るとなったら予想外の冷え込みで冷え性の私は一向に眠気が訪れずにいた。さらに同じ部屋にシズちゃんが寝ているという状況にそれは緊張していた。シズちゃんの母親は二人一緒の布団がいいかしら?とニコニコしていたが付き合っている訳でもないのに二人一緒の布団で寝るわけにはいかず、客である私がシズちゃんのベッドを、シズちゃんは同じ部屋に布団を敷いて別々に寝ていた。

私は眠れないって言うのに…。ここまで熟睡してると、なんか凄く憎たらしいんだけど…。

私の寒さも緊張も露知らず、睡眠を貪る部屋の主に私はぷくりと頬を膨らませた。

「シズちゃん。」

「すー…。」

「シズちゃん。」

「すー……。」

「……。」

ジーー…っと、熟睡しているシズちゃんをガン見してみる。完璧に熟睡しているからちょっとの物音などでは起きそうにない。

「シズちゃん…おきないでね?」

そろりと音を立てないようにベッドから降りてシズちゃんの布団の横にしゃがみこみシズちゃんがぐっすりと寝ていることを改めて確認する。そしてペラリと布団を少しめくって体をそっと布団にすべらせた。

我ながらかなり大胆なことをしていると思う。心臓はばっくばくだ。それでも夕方に泣きついたシズちゃんの体温が恋しかったのだ。言い訳は後から考えればいい。それかシズちゃんよりも先に起きてしまえば問題ない。

「すかー…。」

「……。」

あったかい………シズちゃんてばやっぱり子供体温だね。

コッソリ潜り込んだそこは予想以上に暖かい。

シズちゃんの体温が冷え切った私の身体には心地よく、さっきまでは全くなかった眠気が次第におそってくる 。シズちゃんの方も私の冷え身体が心地よいのか無意識にもぐりこんだ私をぐいっと抱き寄せた。吃驚したが
シズちゃんの無意識の行動が嬉しくって私も自らもシズちゃんの胸元に擦り寄ってその体温にくるまれた。

朝起きたときの言い訳を一応考えないと…と思ったもののうっとりしたくなるくらいの心地よさに意識は次第に睡眠へと誘われていく。

「……。」


そしてシズちゃんの布団に潜り込んで数分もたたないうちに私は冷えた身体をほかほかとシズちゃんの体温に暖められながら眠りに落ちていった。







***

んー…やけにあったかくて気持ち良いな?

うっすら目を開いたまま、なんでだ……と覚醒したての頭でぼんやりと考えた。

カーテン越しにうっすらと差し込む光に朝だということを確認する。

「んぅ……。」

「?」

僅かに身じろぐ声がして視線を少し下に下げると黒い艶やかな髪とやたら整ったきれいな顔。

「…臨也?」

俺の腕にすっぽりと収まっているのはどう見ても臨也だ。

なんで俺の布団に…?ベッドで寝てたんじゃ…俺が寝相悪くて引き落としたとかなのか?と、 突然のことに俺は混乱するが当の臨也は気持ち良さそうにすやすやと眠っている。

「頭しか出てねえし…。」

寒いからか見事に布団に潜り込んでいてその様子はまるで頭だけを出した亀のようで少し笑えた。顔にかかった髪をどけてやると『うーー…。』と少しむずがるような表情を見せた後モゾモゾと猫のように俺の胸元に擦り寄っきた 。そしてしばらくすると居所に落ち着いたのかふにゃりと表情を崩した。

「うっ……わぁ…。」

かわいいっ…!?何だコノ生物は。…いや、っつうか臨也だけどよ。すっげぇかわいいじゃねえか!!

幸せそうなふにゃふにゃとした表情で眠る臨也を俺は思わずギューっと抱きしめて感動にひたる。しかしこいつは昨日からやたらと可愛いことをしてくれる。
臨也本人が俺に好きと言った訳ではないが、昨日の態度は誰がどう見ても俺のことを好きといっているようなものだった。毎日やたらと他の誰でもない俺に喧嘩を吹っ掛けてきていたのも俺に構われたいだけなのかと考えれば可愛いものだ。

もともと臨也の顔は嫌いではなかったが、たった一日でずいぶんと臨也に惚れ込まされた気がする。



「ん…。」

暫くして目を覚ました臨也が視界に俺の姿を捉える。

「………。」

「よう、おはよう。」

数秒ほどポカンとしていたのだが、状況を理解するとじわじわと顔を赤らめていく

「………ゴ、メンナサイ。」

謝ってくるところを見るとどうやら俺が臨也を布団に引きずり込んだのではなく臨也が自分で潜り込んできたらしい。何で俺の布団に潜り込んだんだ?と理由を聞いてやろうかとも思ったがなんとなく今はいじめるよりも甘やかしてやりたい気分だったのでやめておいた。

「謝んなくていい。」

形のよい頭を撫でてやれば臨也は困ったような表情を浮かべ視線をそらすのだった。






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