04
大学も始まり、同居生活にも慣れてきた。
美優さんは原稿の締め切りが近いらしく、最近は自室に閉じこもっていることが多い。
少し早起きをして朝食と昼食の準備をし、講義を受けた後は買い物をしてまっすぐ家に帰る。
洗濯物を片づけたり、掃除をしたり、夕食の準備をしていたらあっという間に一日が過ぎていく。


友達もできたが、いわゆる飲みやコンパに付き合うこともあまりない。
高校まで幼馴染の気が置けない友人たちと一緒にいたせいか、そういった上辺だけの付き合いがどうしてもしっくりこなかった。
地元を一人離れ、東京に進学することは自分で決めた。そのことに後悔はしていないし、何より今は美優さんの身の回りの手伝いをすることにやりがいと満足感を得ている。





「美優さん、また昼飯食べてないな…」



帰宅した真琴は夕飯用の食材を冷蔵庫にしまいつつ、レンジの中に入れっぱなしのオムライスに目をやった。
それを温め直すと、コーヒーメーカーに電源を入れる。



美優の部屋の前まで行き、遠慮がちにノックをした。



「美優さん?開けますよ?」


「んー」



返事とも何とも言えない声が返ってきたことを合図に、ドアを開ける。
デスクの前でパソコンに向かっていた美優は、うっすらと隈のできた目を眠そうに擦りながら、真琴へ目線をやった。



「もう夕方ですよ?お昼、食べてないですよね?今温め直してるんで休憩がてら少し食べてください。コーヒーも淹れますから」


「…ありがと。今ちょうどひと段落したところ…っ…ふわあぁ…」



大きなあくびを隠そうともせずおもいっきり伸びをし、ゆっくりと立ち上がる美優は真琴に対してまったく恥じらいを持っていないようだった。
自分に対してすっかり安心しきっている様子が嬉しい一方で、少しも意識されていないという事実を突きつけられているような気がして、なんとなくもやもやする。


真琴に促され、美優はゆっくりとした足取りでリビングへと向かった。



「締切間に合いそうですか?」


「一応書き終わったから、あとは編集部に送って一回チェックしてもらって………あ、オムライス…だいすき」



眠そうなとろんとした目を細めてふにゃっと笑う美優に真琴は胸が高鳴るのを感じた。
普段は割と無表情でさばさばしていて、何を考えているのか分からない、どちらかというとクールな人なのだが、自分の欲望には素直で実は少し子供っぽい。一緒にいればいるほどそんなギャップが見えてきて、どうしようもなく真琴の庇護欲を刺激した。



「……だから、もし編集部から連絡着たらそう伝えておいてくれる?…真琴?」


「えっ、あ、はい!わ、わかりました」


「どうしたの?なんだか疲れてる?」


「い、いや、なんか、ちょっとぼーっとしちゃって…あ!コーヒー淹れてきますね!」


「…うん?なんか、変なの」



そうは言いながらも美優はあまり気にすることもなくダイニングテーブルの前に腰を下ろし、自分の食欲を満たすためにスプーンを進める。
約9時間ぶりに口にした食べ物は温かく、優しく身体に染み渡っていくのを感じた。



「美優さん、コーヒー入りました…って……美優さん…!?」



真琴がリビングに戻ると、美優はスプーンを手に持ったままテーブルに伏せていた。
近づくと、すーすーと、規則正しい寝息が聞こえる。



「…仕方ない、か。昨日は徹夜だったみたいだしなぁ…」



口にケチャップが付いたまま穏やかに眠る美優を見て真琴はふっ、と笑いを漏らした。
指で優しくケチャップを拭い、それを舐め取る。
きっと本人が起きていて、目の前でこんなことされてもまったく動揺しないんだろうなぁ…そう思うと、自然とため息が零れそうになる。
いつまでもこの寝顔を眺めていたいが、さすがにそうするわけにもいかない。
美優の手からゆっくりとスプーンを抜き取ると、起こさないようにできるだけ優しく抱きかかえた。



「美優さん、ベッド行きましょう?」


「ん…ま、こと…」



無意識なのか、真琴の服をぎゅっと握り、ぬくもりに身を寄せるように胸に顔を預けた美優に驚き、思わず大きな声が出そうになるが、必死に抑える。
うるさく鼓動する心臓の音が美優に聞こえてしまうのではないかと思いながらも、真琴は美優の感触と香りを名残惜しむようにゆっくりと運ぶ。
肘で器用に美優の部屋のドアを開けると、なるべく衝撃を与えないように優しくベッドへおろした。



「お疲れ様でした…美優さん」

自分の顔が緩むのを感じながら、真琴は部屋を離れた。

2013.11.30




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