01

この春、俺は東京の大学へ進学することが決まった。
ハルとは別の道を選び、18年間暮らした家を離れる。
と言っても一人暮らしをするわけではないが。


『急に仕事の打ち合わせが入って迎えに行けなくなった。悪いけどこの前送ったカードキーで勝手に入って。オートロックの解除番号は***。送られてきた荷物はリビング左奥の部屋に置いてある。その部屋は自由に使ってくれて構わないから、私が帰るまで荷物の整理でもしていてくれ』

「わかりました。ありがとうございます・・・っと」


今日から世話になる家主からのメールに返信し、目の前のタワーマンションを仰ぎ見る。
新宿に佇むどこからどうみても超高級なこのタワーマンションに俺は住むことになる・・・んだよな。


家主の名前は狭間拓海。職業は作家。
まだ作家デビューしてから数年らしいが、俺でも名前を知っているくらいには有名な人。
そんな彼と俺は遠い親戚らしいのだ。
正月に親戚が集まった時にそんな話が出て、”以前にも増して人気が出たせいで忙しくなり、彼が身の回りの世話をする付き人を探している”と。
それを聞いた親が親戚経由で連絡を取り、俺が大学に通う4年間居候させてもらう代わりに彼の身の回りのことを手伝うという約束を取り付けた。
最初はもちろん驚いたし、そんなことが俺に務まるのか不安だったが、東京で一人暮らしするとなるとどうしてもお金がかかる。
彼の元に住めば家賃はかからないどころか、付き人としての給料も出してくれるらしい。
そんな美味しい話を断ることもできず、受け入れることにした。


さすが新進気鋭の作家の住居。
新宿なら大学にも通いやすいし、こんなに綺麗なところに住めるだなんて夢みたいだ。



「・・・・・うわっ、広い」



マンションのエントランスはまるで高級ホテルみたいで、思わず見渡してしまう。
50階まで上がり、彼の部屋を探そうとしたが、ドアは一つしかない。
まさかと思ったが、この50階、ワンフロアが全て彼の住居のようだった。



「・・・・お邪魔しまーす」



慣れないカードキーを差し込み、ドアを開ける。
男性の一人暮らしとは思えないほど片付いている・・・・・というより、物が少ない。
家主がいないのにあまり詮索するのもどうかと思い、自分に宛がわれた部屋に直行する。
リビング左奥の部屋のドアを開けると、15畳ほどの部屋の中に俺が送った荷物がぽつんと置かれていた。
居候の身分だし、物置部屋くらいを覚悟していたのに、まさかこんなに広い部屋が使えるとは思いもせず、ただ驚くことしかできなかった。
しかも、シンプルでありながらもセンスの良さが伺える机、本棚、箪笥、ベッド、スツール・・・・家具まで揃えられている。



「大丈夫かなあ・・・・」



俺はこれに見合うだけの働きをすることができるのだろうか。
急に不安になった。

とにかく家主が帰ってくるまでに荷物の整理をしよう。
そう思い、俺はダンボール箱を開けた。

2013.11.3




「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -