例えば、朝起きてカーテンを開けて陽の光を浴びる。そのまま窓を開けて新鮮な空気を肺いっぱいに吸い込む。なんて、そんな些細な日常の動作すら許されない。それが私たち執行官。
ホログラムの窓に映るのは人工の空。空気清浄機は正常に作動しているし、LEDの光も何ら問題も無く部屋を照らす。それでもどこか味気ない日常。
秀星や私は幼い頃にシビュラの加護を受けることが叶わなくなり、長い間ずっと更生施設で過ごしてきた。普通の人が当たり前のようにしてきたこともできない。遊び方も知らない。"楽しい"なんて感情すら忘れてしまっていた。

執行官になって檻の中での自由を手に入れた。もちろん不自由なことも多いけれど、更生施設よりはマシ。本来なら一生更生施設で生活するか処分されるはずの人生。
秀星は失った少年時代を取り戻すかのように幼い頃に憧れたオモチャやゲームに夢中になり、私は化粧を覚えて自分を着飾ることに夢中になった。それでも満たされない。心の奥が常に渇いている感覚にいつも苦しんでいた。それを埋めるかのように秀星と私はいつしかお互いを求めるようになった。お互いの存在を確かめ合うことで心の渇きは緩和される。
私も秀星も愛というものを知らずにオトナになって、初めて知った愛というものを夢中で求めた。



「っ…はぁ、はぁっ…」


「…ど?きもちよかった?」


「…ん、秀星は、?」


「さいっこー。やっぱ俺ら相性いいよね」



行為の後に腕枕、だなんてベタすぎて少し照れ臭い気もするけど。秀星に髪を撫でられながら耳元に唇を寄せて、お互いに少し掠れた声で会話をするこの時が私の幸せ。



「…秀星はさ、何をしてる時が一番楽しい?幸せってどんな時に感じる?」


「はあ?なんだよ急に」


「いいから、教えて?」



何の脈絡もなく投げかけられた問に不思議な顔をしつつも「そうだなあ…」と真面目に考え始めた。
私は心の底から秀星に幸せになって欲しいと思っている。
更生施設に閉じ込められて何の楽しみもなく一生を終えるはずだった私に執行官としての道を示し、暗い沼の中から引っ張り上げてくれた。愛されるということ、そして愛するということを教えてくれた。些細なことで一緒に笑いあって、"楽しい"という感情を与えてくれた。側にいるだけで"幸せ"だと胸を張って言える。
そんなあなたに幸せになって欲しいと思うのは、ごく自然な感情でしょう?



「料理したりゲームしたりすんのも楽しいけど、ギノさんからかったりコウちゃんと手合わせしたり…一係の皆といる時がなんだかんだ一番楽しいかなあ…」


「生意気なこと言いながらも秀星、みんなのこと大切に思ってるもんね」


「…うっせーよ!………まあでも、結局料理すんのも香苗に食べて貰いたいからだし、ゲームも一人でするより香苗とした方が楽しいし、ギノさんからかうのも香苗が困ったように仲裁に入るの見んのが好きだからだし、コウちゃんと手合わせするのも俺のかっけー姿を香苗に見せたいからだし、朱ちゃんに絡みにいくのも香苗に嫉妬して欲しいから…だったりして?」



勢いに任せて一気にそう言うと、秀星はぷいっと顔を背けた。



「…秀星、そんなこと思ってたの?」


「……わりィかよ」


「ね、こっち向いて?」


「…はあ?なんで?」


「いいから、早く」



バツが悪そうにこちらに向いた秀星の顔はほんのり紅くて、への字に曲げた口元すら愛おしく感じる。



「秀星、顔真っ赤だよ?」


「っ、うっせーな…黙ってろって」


「んっ、」



噛み付くかのように唇を塞がれ、ねっとりと絡みつくような舌づかいに翻弄される。
舌を引っ込めようとすればそれを追いかけられ、より深い口付けになっていく。
観念してそれに応えるように舌を絡ませれば、秀星は満足気に甘噛みし、歯列を丁寧になぞる。
同時に頬を優しく上下に撫でられ、それだけで秘部がじんわりと湿っていくのを感じた。
息の限界を感じ秀星の胸を軽く叩くと、名残惜し気に唇が離れていく。だらんと垂れ落ちるどちらのものかも分からない唾液をぺろりと舐め、秀星は口角を上げた。



「…俺の愛情感じちゃったところで、もう一回シとく?」


「…秀星は、シたいの?」


「あったりめーじゃん!…俺、香苗の体温感じてる瞬間が一番幸せだし」



そう言ってくしゃっとした笑みを浮かべる秀星は本当に幸せそうに見えた。

何もかも奪われ続けてきた人生だけど、今この瞬間だけはどうか奪わないで。
そして願わくば、ずっとこのままで。

(どうかこのまま、幸せの中に)

2013/2/11
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