※特に意味もなく学パロ
「ねー、ぎの。これあげるから数学教えて?」
自分の身体より一回り大きいサイズのカーディガンを身に纏い、小さい身体をよりいっそう際立たせた篠井は新発売のチョコレートを差し出し、小首を傾げながら言った。
裾からちらりと覗く指先は細く、淡いピンク色のマニキュアに彩られている。
「ね、いいよね?はい、あーん」
反射的に口を開ければ放り込まれるチョコレート。甘い。
「はーい、契約完了っと」
「…どこがわからないんだ」
「んふふ、ありがと。ここ、教えて?」
篠井は俺の机の上に教科書を広げ、隣の席の椅子を引っ張り出して座った。
途端に下がる目線の位置。
「お前…小さいな」
「は…?ぎのが大きいだけでしょ。私の身長は標準。そんなことより、ここ〜」
細い指先で教科書の問題をこつこつと叩く。
「…こんな問題もわからないのか?」
基礎中の基礎。公式を当てはめれば容易に解けるはずの問題だ。
俺に聞かずとも例題に従って解けばいい。
「数学は苦手なの」
俺は知っている。こいつの成績は学年でもそこそこの上位であることを。
こんな問題を一人で溶けないほど馬鹿ではないことを。
それを追求することは簡単だが含みを持った笑みを前に何も言うことができず、俺は溜め息を一つ落とすとその細い指先に誘われるまま教科書に目を落とした。
「この公式をそのまま当てはめてみろ」
「ふむ、なるほど」
「計算の順番さえ間違えなければ、篠井なら解けるだろ」
「……あ、ほんとだ」
最初から分かっていた癖に。とは口に出さず、滑らかに滑るペン先を見つめていた。
小さな彼女の細い指先から紡がれる文字もまた小さくて、とてもしっくりくる。
「んー、できた!ありがとね、ぎの」
「ああ」
机に頭を乗せ、下から覗き込むようにはにかむ篠井のカーディガンのポケットからチョコレートの箱が頭を出しているのを目ざとく見つけた。
「篠井、それをもう一つくれ」
俺がそう言うと篠井は一度目を瞬かせた後、嬉しそうに目を細め「…ぎのって意外と甘いもの好き?」と溢しながらポケットに手を伸ばす。
白い指に挟まれた丸いチョコレート。何の変鉄もないただのチョコレートがこんなにも食欲を煽るだなんて。
口元に差し出され、今度は自らの意思で口を開く。
チョコレートを唇に挟む瞬間、その細い指先が一瞬触れる。甘い。
ああ、そうか、食欲煽るのは、その甘そうな指先。
「…ぎの?」
篠井の腕を掴み、その繊細な指先を唇に当てる。ひやりとした滑らかな肌はまるで陶器のようで。
「甘い…」
「ちょっと…ぎのっ…」
指先から手首に向かって舌を這わせる。
「甘い物は、嫌いじゃない」
先程篠井が投げ掛けた問いに答えた。
2012/12/06