とくん、とくん、



耳を押し当てた厚い胸板からは穏やかな心音が心地良く響いている。
こんなに密着していても、心音を乱すような激しい感情というのを抱く間柄ではない。
そんな感情を持ち合わせていなくても肌を重ね、体液を混ぜ合わせる行為をすることができる。
好きか嫌いかで尋ねられたら、好き。それは愛かと問われれば、ノー。
でも肌を重ねている瞬間は確かに互いに愛し合っていた。



「ね、秀星。ちゅーして?」


「んー」



そうおねだりすれば、彼は唇をわずかに尖らせ、つむじ、おでこ、耳、首筋、うなじと、順になぞり、最後にチュッと軽い音を立てて私の唇に触れた。



「ね、もっと…」



唇を薄く開き、誘うようにちらつかせた赤い舌を追いかけるように、彼の舌が口内に侵入した。
熱くうねる舌は別の生き物のように動き回り、息をする間もないくらいねっとりしつこく私の舌を嬲る。
酸素を求めて口を開こうとすればもっと奥に侵入され、酸欠で頭がくらくらする。視界が涙でぼやけ、ふわふわする感覚に意識を飛ばしそうになった瞬間、両腕をベッドに縫い付けられ、彼が私にのし掛かった。



「はっ……逃げんなよ…俺から……っ…逃げないでくれ、」


「はぁ、はぁ、はぁ……しゅう……ぁっ」



息も整わぬまま再び口を塞がれ、私はされるがままに彼を受け入れた。
うねうねと動く生ぬるいその舌は唾液をたっぷりと纏い、私の舌とどちらが自分の舌なのかわからなくなるくらい執拗に絡み合った。
その感覚が異様に気持ちが良くて、ただでさえ酸欠で上手く働かない頭が思考を放棄して快楽に身を委ねてしまいそうだった。
あと一歩の理性で踏みとどまり、私は彼の舌を甘噛みし、怯んだ隙に胸を押して距離を取った。
互いの口元は唾液でべちょべちょに濡れ、粘度の低い唾液が二人の間を繋いできらきらと光っている。



「はぁっ…はぁっ…くるしい…よ…秀星…ーっ…」


「俺だって苦しい…ここが苦しくてたまんねぇ…」



掴まれた手はそのまま彼の胸へと誘われ、少し早めの心音が手のひらに響いた。


私たちは同じ痛みを抱え、今まで生きてきた。愛の無いこの関係は所詮傷の舐め合いでしかなく、二人分の痛みは倍になり、互いに重くのし掛かる。
決して癒されることなどなかった。ただ痛みが倍になるだけ。そんなことは最初から分かっていたはずなのに私たちは互いの温もりを貪り、快楽で痛みを誤魔化すことを止められない。



「…私にはその痛みは癒せないよ」



あなたが私の痛みを癒せないように。



「いい…それでもいいから、一時的な慰めでもいいから…俺を必要として…俺だけを見て……俺を、あいして」



この世界に必要とされなかった子供たちは愛を知らずに大人になった。
愛されることも、愛することも知らず、ただその真似事をして傷を舐め合うことしかできない。
そこに救いは無くとも、ただひと時の安らぎのために、肌を重ね、交わり、呪文のように囁く。



「あいしてるよ、秀星」


(隙間を埋めるようにきつく抱き締め合った)

2013.5.23
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