「なぜだろう僕はキミが愛おしくてたまらない」
情事の後、槙島は美智の額に張り付いた前髪を梳きながらそう呟いた。
「それはきっと私が孤独だからです」
この世界で私はひとりぼっち。
そうでしょう?
美智は槙島の耳元でそう囁き、微かに微笑んだ。
「この世界に孤独でない人間なんていない」
そう、僕だけが孤独ではない。システムから排除されようがされまいが、結局この世界の全てのものが代替可能なつまらないものばかり。自分以外の全てに取り替えが効く世界に孤独でない者などいない。
そうだろう?
槙島は自分に言い聞かせるかのように、心の中で呟く。
「でもね、槙島さん。私はそんな世界の住人ですらないんです。だから、こんなにあなたに良くして頂いて毎日幸せに過ごしていても、孤独であるという事実は消えない」
「キミはその孤独に耐えられるのかな」
「…どうでしょう。でも私が孤独であればあるほど槙島さんの心を満たせるのだから、私はこの世界にきて良かったと思います。だからきっと耐える耐えないの問題ではなくて、私が感じているこの孤独は必然のものなんです。きっと私がこの孤独から解放されるのは、槙島さんから必要とされなくなってこの世界から消える時だから…このままでいいんです」
「キミはー……」
僕のためにこの世界に来たのか。
その言葉を飲み込み、美智の汗ばんだ肌に吸い寄せられるかのように唇を落とした。
「んっ……」
くすぐったそうに身をよじるその姿が、薔薇色に色付くその頬が、濡れた瞳が、微かに開いた唇から漏れる甘い声が、全てが愛おしい。そしてその全てが自分のために存在するのだと思うと、抱えている孤独感が和らいでいく。
孤独を恐れない者を評価することは簡単だ。だが孤独を知り、それを受け入れることができたなら。人として尊敬に値する。
そして美智はその境地に達している。尊く、決して代替することのできない、唯一無二の存在。
槙島はそう確信した。
「僕は永遠なんて信じないけれど、美智のことを必要としない日は決して来ないと断言できる。だからキミがこの世界から消えることは有り得ない。そしてキミは孤独と共に在り続けるだろう」
それでも、いいのかい?
今度は槙島が、美智の耳元で甘く囁いた。
「…はい。私はきっとこの世界に、…あなたに、縛り付けて欲しいんです」
その言葉を聞いた槙島は美智の肢体を抱き寄せ、額に優しく口付けを落とした。
(キミは僕のために、僕はキミのために)
2013/4/3