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「大丈夫だよ、愛梨。僕がいるでしょ?」


日和のその一言は、魔法のようだった。

日和にそう言われて、上手くいかなかったことがない。
辛い時も、悲しい時も、いつも日和が側にいてくれた。

優しくて、頭が良くて、私の欲しい言葉をいつだってくれた。

日和の言う通りにしていれば全てが上手くいく。

そうやって10年以上生きてきた私は、気付いた時には、日和がいないと何も出来なくなっていた。

それに気付くことすら出来ないくらい、日和はそれが当然のことのよう私に甘やかし続けてきた。
私はもう自分の輪郭すら把握出来ないほどにどろどろに溶けていたというのに、それに気付いても、日和から離れることが出来なくなっていた。


「ねえ、日和」

「ん?」


人混みの中で、私が人とぶつからないようにさり気なく肩を抱いて歩いていた日和は、人混みを抜けるとその手で私の手を握り、歩幅を合わせて歩く。

これが、当たり前のことではないと気付いたのはいつだったか。


「学科のコンパ、どうしよう」


学科内で近々大規模なコンパがある。
私は、大勢の人がいる場所が苦手だった。
でもコンパには先輩も来るらしく、試験の情報や就活のことなど色々なことが聞ける。
サークルに所属していない私にはそういう機会がなかなか無いので、行きたい気持ちが少しあったが、日和が一緒に行ってくれないと多分私は上手く話すことも出来ない。
だから、”お伺い”を立てる。


「ああ、行かなくていいんじゃない。どうせみんな飲んで騒ぎたいだけだろうし、行っても意味無いと思う。何か知りたいことがあるなら、僕が部活の先輩に聞いておくよ」

「うん……そうだよね。特に何かが聞きたいってわけでもないんだけど……いいのかな」

「……愛梨は、行きたいと思ってるの?」

「そういうわけじゃないんだけど、私、そういう場が苦手でしょ?今のうちから少し慣れておいた方がいいのかなってちょっと思って………」


少し、勇気を出して言ってみるが、日和が何と答えるかは予想がついていた。


「愛梨。やりたくないことや苦手なことをやる必要なんてないっていつも言ってるよね?愛梨にはいつも好きなことだけをして欲しいし、傷付くことなく、綺麗なものだけを見られる世界にいて欲しいし、そのためだったら僕は何でもするって」


握られた手の平を、指でするりと撫でられる。


「私、このままで大丈夫なのかな」


私がそう呟くと、日和はにっこりと笑いながら、魔法の言葉を私に与えた。


「大丈夫だよ、愛梨。僕がいるでしょ?」


この10年間の中で、独り立ちするタイミングはいくらでもあった。
でも、日和のこの言葉を聞くと、もう少しこのままでいたくなる。

こうして、日和がいないと何も出来ない、何も考えられない、人形のような私が創られていく。

私は、このキラキラした万華鏡の中心に、ただ立っているだけ。

2018/07/23

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