06


カーテンの隙間から漏れた朝日が眩しくて、寝返りを打つ。
うっすらと目を開けると、零さんが私を見つめていた。

昨夜、私の膝で眠ってしまった零さんを見つめていたら、私もいつの間にか眠ってしまっていたようだ。
きっと、ベッドには零さんが運んでくれたのだろう。
そんなことを寝起きのぼんやりとした頭で考えた。

「おはよう」

「・・・おはようございます」

一緒に暮らし始めた頃には、絶対に私をベッドで寝かせたい零さんと、零さんにソファで寝て欲しくない私の攻防戦が繰り広げられていたが、結局大きなベッドで2人で寝ることになった。

仕事でいないことも多いし、帰ってきたとしても睡眠時間が短い零さんは、ベッドに入っている時間も多いわけではないけれど、やはり気恥ずかしさはある。

それでも、零さんは私を抱き枕にして眠る程度で、基本的に身体的な接触は少ない。

キスも、数えるほどしかしていない。

おそらく零さんは記憶がない私を恋人として扱って良いのか葛藤している部分があるのだろう。

恋人だったのだから、おそらく身体の関係だってあったはずなのに。

零さんは今、どんな気持ちで私のことを見つめていたのだろう。

「ん?」

「あの、寝顔をそんなに見つめられると、さすがに恥ずかしいです」

「僕の癒しの時間を奪うつもりか?」

「・・・からかってますか?」

あまりにも真剣で険しい表情をしていたから一瞬判断に迷ったが、口角が若干上がっていることから、からかわれていると判断した。

「ふ、」

零さんの口から息が漏れ、ふふと笑う。

「ポーカーフェイスは得意なのに。さやかにはかなわないなあ」

「口角がピクって動いてましたから。職場ではそんなに険しい顔してるんですか?眉間にシワ、できちゃいますよ」

からかわれてばかりではいられないと思い、ちょっと棘のある言い方をしてしまった。

「そんなこと言うんだ」

にっこりと笑った零さんの顔と、天井が見える。
押し倒された、と自覚すると同時に顔に熱が集まるのを感じる。

「ごめんなさい、冗談です。透さんはいつまでもお若いです。シワなんて出来る気配もありません」

「朝からよく喋る口だな」

零さんの綺麗な顔が近付いてきて、唇が塞がれる。
唇がじんわりと温かくなり、胸の中にきゅんと甘い疼きを感じた。

ああ、私、零さんとキスしたかったんだ・・・

零さんの舌に、自分の舌を絡める。
今まではされるがままだったが、自分から零さんを求めているのを感じた。

零さんは動きを止めたが、それは一瞬のことで、更に深く唇を重ねる。

んっ、はぁ、と漏れる息すら飲み込むような深いキスに、頭がくらくらする。

もっと欲しい、もっと零さんを知りたい。

息継ぎのために離れた唇を物欲しげに見つめている自覚があった。
透明な唾液が2人の間を繋いでいる。

ちゅ、ちゅ、というリップ音をさせながら、零さんの唇が顔から首筋、胸元まで下がっていく。
その心地良さに、思わず声が漏れる。

「ん、零、さ・・・」

美しい青い瞳には、とろけた顔をした自分が映っていた。
零さんの瞳も欲に濡れていて、ぎらぎらした雄の気配を感じる。

それなのに、零さんはぐっと自分の拳を握って深く息を吐き、顔を背けると、私の上から退いてシャツを羽織った。

「さやか、ごめん」

「っ・・・待って、零さん」

ベッドから逃げようとする零さんのシャツの端を掴む。

「どうして・・・?今の私は、零さんが好きだった私とは違うから・・・?」

「違う、そうじゃない」

「じゃあどうして・・・?」

私の問いかけに、零さんは沈黙する。
言うべきなのか迷っているような様子だった。

「さやかは、僕に抱かれてもいいのか」

「だって、私たちは恋人でしょう?」

「僕は、今のさやかの気持ちが知りたいんだ」

一旦言葉を切り、私の反応を確かめているようだった。
私は何も言わずに零さんを見つめていた。

「さやかは、俺のことが好きなのか」

自分のことを"俺"と言う零さんは、私が知っているどの彼とも違う人のようだった。

2018/07/11


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