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零さん、いや、今は安室さんとして話しているのだろう。

安室さんの話した内容を反芻した。

彼は、自己嫌悪に陥っているようだった。

確かに、関係を偽り、私を自分の家に閉じ込めていたのかもしれない。
客観的に見ればそれは異常なことだ。

でもそんな彼を責めることは出来なかった。

誰にでも優しく、誰からも好かれる彼。
彼がいるポアロが好きだった。
彼が淹れるコーヒーが、彼が作るサンドイッチが好きだった。

私は、ずっと安室さんのことが好きだった。

完璧な彼と自分はあまりにも不釣合いで、憧れに近い感情だったけれど、今は違う。

降谷零という彼の本当の人格に触れて、彼のことを本気で愛おしいと感じている。

苦悩する姿を、顔を歪める姿を見て、彼のことを始めて自分と同じ人間だと認識出来たような気がする。

この人の側にいたい。尋常ではない重圧を背負い、本当の自分を表に出すことなく自分を犠牲にしてでも守るべきものを守る。そんな彼を支えられる存在になれたらどんなに良いだろうか。

「私、安室さんに憧れてました。優しくて、気遣いが出来て、自分よりも他人を優先するその姿をかっこいいなとずっと思ってました。でも、完璧すぎて掴みどころがなくて、この人は本当に同じ人間なんだろうかなんて思ったりもして。安室さんは、零さんによって"作られた人"だと知って、ほっとしている自分がいます。零さんは、記憶が無い私を恋人として大切に扱ってくれました。零さんは何でも出来るし、完璧に見えるけど・・・とても人間らしいなと思いました。私に嘘をついていた自分を責めているのでしょうけど・・・」

私の言葉に、ただじっと耳を傾けている。

「私、零さんの全てを受け入れます。最低な男でも良いです。好きになってしまいました」

そう、好きになってしまったのだからどうしようもない。
零さんが自分を責めて、私から離れていってしまうほうが辛いのだ。

「僕は、危険な仕事をしている。この先、もしかしたら今回のように危険な目に遭わせてしまうこともあるだろう。それでも、」

安室さんの口調から、零さんの口調に変わる。

「側にいたいと思っても、いいか」

私は、記憶を失うきっかけとなった出来事を断片的にだが思い出していた。
知らない男。強く握られた腕。冷たいコンクリートの感触。そして、真っ赤な血。
その記憶が頭に浮かぶだけで、今にも震えそうなほど怖い。
それでも、

「私も、一緒にいたい」

そう口にした瞬間、零さんの香りにふわっと包まれ、強く抱きしめられた。

その体温がとてつもなく愛おしく感じて、零さんの服をぎゅっと握った。

零さんの手が私の頬に触れる。
その手に、自分の手を重ねた。

零さんの甘いマスクとは裏腹に、男らしいゴツゴツした手。

きっと、私が想像できないくらい危険な目に遭って、何度も傷つけられてきたのだろう。

何でも完璧にこなすのに、どこか不器用で。

だからこそその手を握ってあげられる存在でいたい。

ただ守られるだけの存在ではなく、零さんが安心して帰れる場所を作りたい。

零さんが、たった一人、本当の自分を曝け出すことができる存在になりたい。

「零さんの、全部を知りたい」

「・・・後悔するぞ」

「どんな零さんでも、全部受け止めます」

「さやか、」

顎を掬われ、上から覆い被さるように深いキスをされる。

零さんの左手が、器用にワンピースのジッパーをゆっくりと下ろしていくのを背中で感じた。

2018/07/19

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