【松岡兄妹!兄妹の関係を超えた!?南青山手繋ぎデートをキャッチ】

8月末日。TV番組収録を終えた松岡結(21)は、トレードマークのロングヘアを結い上げ、メガネとマスクを身につける。
カジュアルなパンツスタイルで向かうのは南青山のセレクトショップ。
既に入店していた男性と、親しげな様子で服や帽子を選んでいるようだ。

店内から出てきた二人は、店で購入したと思われるお揃いのキャップを目深に被っていた。
松岡結は男性の腕に自身の腕を絡ませ、甘えた様子で男性のことを見つめる。
彼女のファンがその姿を見たら、確実に卒倒してしまうだろう。
今まで複数回、共演者等との交際が噂されていたが、核心に迫る情報はなかった。
となると、気になるのはこのお相手の男性。
男性もマスクをしているが、隠し切れない整った顔立ちには見覚えがある。

彼は結の兄であり、競泳日本代表メンバーの松岡凜選手(21)だ。

鍛え抜かれた肉体と端整な容姿で女性ファンが多いことで有名な松岡凜選手。
10代の頃からトップアイドルとして活躍し、近年では女優としても活躍する松岡結。
誰もが羨む美形兄妹は、メディア出演時に互いのことをよく話し、仲が良いことで有名である。

しかし、本誌が今回キャッチした2人の関係は、いささか兄妹の関係を超えているように見受けられた。
指を恋人のように絡ませた2人は、カジュアルなフレンチレストランで食事を済ませ、そのままタクシーに乗り込み、一緒に住むタワーマンションへと消えて行った。
同時刻に同店で食事をしていた女性客に2人の様子を聞くことができた。

『すぐに松岡兄妹だと気付きました。2人ともテレビで見るよりも美形で、思わず見惚れてしまいました。
ただ、なんというか・・・兄妹というよりも、まるで恋人同士のような雰囲気でしたね。
結さんはワインを結構召し上がっていて、とろんとした瞳で松岡選手を見つめていたので、女の私でもちょっとドキッとしちゃいました。
松岡選手って目付きが鋭いイメージでしたけど、すごく表情が柔らかくて……結さんを大事にしているのが伝わってきました。お似合いなカップルに見えますけど……双子ですもんね。やっぱり2人の雰囲気は似てますし、兄妹にしては距離が近すぎて、少し異様な感じはありました』

仲睦まじい兄妹の食事。
本来ならば微笑ましい光景かもしれないが、この兄妹の場合は少々事情が違うようだ。
まるで恋人同士のような距離感から、2人の仲を疑う関係者も多い。
高校時代の2人を知る、Aさんに話をうかがった。

『松岡ー……兄の方と同じ高校に通ってました。そんなに親しくなかったですが、彼は目立つヤツだったので……。結さんはすでに有名なアイドルでしたけど、確か高校1年生の時に一旦引退しましたよね。その時、地元の鳥取県に戻ってきたんです。うちは男子校で彼女は違う高校に通ってましたが、寮に住む兄に頻繁に会いに来てましたよ。思春期の男子高校生の中にアイドルの女の子が来るんですから、野郎どもは大騒ぎですよ。ゆっくり話もできないからということで、彼女は特別に寮への立ち入りが許可されてました。いつも兄の部屋に篭って、2人で会っていたみたいです。彼女にちょっかいをかけようとするヤツも多かったですが、彼女は全然相手にしてなかったですね。ブラコンって感じで、他の男には興味無さそうでした。兄の方もかなり過保護で、彼女が学校に来た時は一時も離れずにガードしてました。兄妹っていうよりも彼氏彼女の関係でしたね。仲間内ではあの2人は”できてる”なんて噂もありました。まあ、相手にされないフラストレーションをゲスい噂で発散してる節もありましたけど、結構真剣に疑ってるヤツもいましたよ。あの2人の様子を見てたら疑うのも無理ないと思いますけど……』

その後2人は揃って東京の大学に進学。
結は芸能界に復帰後、主演した映画で日本アカデミー賞主演女優賞を獲得。
凛選手は競泳の日本代表に選ばれ、世界選手権で金メダルを獲得。
目覚しい活躍の裏には、人には言えない2人の関係があるのかもしれない……

***

「ひっどい記事。だからゴシップ誌は嫌い」

結は安っぽいザラザラした紙に印刷された週刊誌に目を通すと、床に放り投げた。

凛はそれを拾い、ゴミ箱へと棄てる。

「私も凛も全然スキャンダルがないから、こうやってネタ探して面白おかしく書き立てようって魂胆が見え見え。そもそもこの凛の同級生っていうAさんって誰?存在するの?」

「まあ、鮫柄はあの辺の学校の中では生徒数多かったしな。ゴシップ誌にネタ売って小銭稼ぐようなヤツもいてもおかしくはないだろ」

「もうさぁ、私たちの関係を安っぽく書かないで欲しいよね。こうやって文章化されるとなんだか下品じゃない?」

「そんな高尚な関係でもねぇだろ?」

凛はソファーに腰掛け、その時を待っていたとばかりに結は凛の膝の上に向かいあわせの姿勢で跨る。
首に手を回してぎゅっと抱きつけば、凛は結の鼻先に優しくキスをした。

「そうだったね」

頬をすり寄せて甘える結を愛おしげに見つめ、その柔らかな唇をぺろりと舐める。
それを合図に結の唇が緩く開き、その隙間から見え隠れする舌に噛み付くように唇を重ねた。

奥へと引っ込めようとする舌を追いかけ、口付けは徐々に深くなっていく。

凛は結の後頭部を支えて、唾液を流し込む。

「ん…………ぁ…………はっ…………」


じゅぶ、じゅぶ。と、水音が部屋に響き渡り、互いの体温は徐々に上昇していく。

凜が結の服に手を掛けた瞬間、凜のスマートフォンが振動し、着信を知らせる。

一瞬動きを止めるが、再び結のシャツを脱がしにかかった。


「待って、出て。この着信、きっと江だよ」


凜の手を静止すると、サイドテーブルに置いてあったスマートフォンを手に取り、画面に出ている『江』の文字を確認した。

結からスマートフォンを受け取り、ロックを解除する。


「はい」

『もお〜〜〜〜〜おにいちゃんずるい!!!!!』


あまりにも大きな声に、凜は思わず耳からスマートフォンを遠ざけた。
結は楽しそうにその様子を見守る。

「・・・・・・なんだよ、何の話」

『しゅ・う・か・ん・し!読んだんだからね!お兄ちゃんばっかりお姉ちゃんとデートしてずるい!』

先ほどまで読んでいた週刊誌の内容を思い出して思わず顔をしかめた。

「あんなくだらねえもん読むなよ・・・」

『だって2人とも忙しくて全然会えないんだもん!あんまり頻繁に連絡するのは悪いかな〜って思いながらも、今何してるのかな、元気かなって思うし・・・』

「お前なぁ・・・」

最初の勢いとは打って変わってしおらしくなる江に、何と声をかけようか迷っている凜からスマートフォンを取り上げる結。

「江」

『!!お姉ちゃん!今日お仕事お休みなの?』

「今日は夜までオフなの。最近連絡できなくてごめんね。遅い時間になることが多いから・・・週刊誌に撮られた日も収録終わりだったの。来月は少し仕事が落ち着くから、一緒にお買い物でもどう?」

『いいの!?』

「もちろん。久々に会いたいよ、江」


江は興奮した様子で、待ち合わせ場所や行きたいお店について話し、結も嬉しそうに耳を傾けている。
凜の前ではよく喋り、甘えた面を見せる結だが、江の前ではしっかり姉の顔をしているのが微笑ましい。

江も2人を追って東京に進学したが、最近は忙しくなかなか会う時間が無い。
最初は一緒に住みたい!と駄々をこねていた江も、2人の忙しさや生活の違いから同居は諦めている。
とは言え、末っ子らしく素直に甘えてくる江のことを、凜も結も心底溺愛していた。

だからこそ、江には2人の関係を絶対に知られてはいけないのだ。

凜は、同じ妹なのに結に対する感情と江に対する感情があまりにも違うことに最初は戸惑ったが、違うからこそ、結に抱いた感情の意味を知ることができた。


「じゃあ、また来週ね」


そんなことを考えていると、電話を終えた結が凜にもたれかかるように身を寄せてきた。


「江は、あの週刊誌を見ても何とも思ってないみたい。まさか自分の兄と姉が本当にそんな関係だなんて夢にも思ってないんでしょうね」

「アイツ、意外と鈍感だからな」

「『2人ばっかり仲良くてずるい〜!江も入れて〜!』ってよく拗ねてたこと思い出しちゃった」

「あー・・・懐かしいな」

「でもいつからだったかなあ、そんな江にも嫉妬するようになっちゃって」


結は凜の腕を引っ張り、胸に飛び込んだ。


「ダメな妹で、ごめんね?」

「・・・・・・こちらこそ」


ちゅ、とリップノイズが降り注ぐ。

(ダメな兄でごめんな)

2017/10/28


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