今は独身の女性が増えてるって言ったって、有る程度の年齢になれば彼氏ができないとおかしいって思われるし、うちみたいな田舎だとなんだかんだやっぱり女性は結婚するものだって風潮があるでしょ?
私ね、彼氏だなんて、ましてや結婚だなんて全然想像できなくて。
凛の隣にいる未来しか考えられなかったの。
でもそれって一般的に見たらすごくオカシイことだから。
アイドルになれば彼氏とか結婚なんて全く考えなくて良いし、考えない方が喜んでもらえる。
私は凛とは違って何か才能があるわけでもなかったけど、凛と同じで顔とスタイルには恵まれてる。だから、それを生かそうと思ったのが一つ。
あとはただ単純に、きらびやかな世界にいれば、凛が側にいない寂しさを紛らわせられるかなって。
そんな自分勝手な理由で、何の覚悟もなくこの世界に飛び込んだの。
それでも私は負けず嫌いだったから中途半端なことなんてしなかった。
ダンスも歌も、レッスンには本気で臨んできたし、結果も出してきた。
それなのに結果を出せば出すほど凛から遠く離れてしまう気がして、受験を理由にしてこの世界から一歩引いた。
普通の高校生活を送ってみて気付いたのは、やっぱり私たちはオカシイということ。
一般的な価値観とはズレている。
双生児が産まれる確率は数%。
二卵性双生児が少ないこの日本で男女の双生児が産まれる確率はもっと低い。
そんなマイノリティな私たちの感覚が周りと違うのは当然なことだと思うのだけれど、きっとそんなことを言っても誰にも分かってもらえない。
私たちは産まれてからずっと二人で一人。
この感覚は私たちにか分からない。
きっと、普通に生きることはできないだろうと思った。
だから私は再びスポットライトを浴びる道を選んだのだ。
眩い光で、この世界と私たちの間にある境界線をぼやかすために。
『結ちゃん、双子のお兄さんがいるんだって?』
『はい、そうなんです』
『しかも水泳の松岡凛選手!あ、映像出てますね。先日の世界水泳で銀メダルを獲得した、今注目の若手選手です。お兄さんもイケメンだね〜!応援に行ったりするの?』
『ちょうどお休みを頂けたので行ってきました。間近で凛を応援できてとっても嬉しかったです』
『お兄さんのこと名前で呼んでるんだね?もしかして、結ちゃん…ブラコン?』
『そうかもしれません。小さい頃は凛のお嫁さんになる!って言ってました〜』
『微笑ましいエピソードだねぇ!』
ゴールデンタイムのトークバラエティ。
確か2週間前に撮影をしたものだ。
結が風呂から上がると、凛がソファーに座ってその番組を見ていた。
結は後ろから凛の首に手を回し、顔を覗き込んだ。
「なーに見てるの?」
「ん?ああ、テレビつけたらちょうどお前が出てたから」
「この時さあ、凛の話いっぱいしたのに結構カットされちゃってる」
「……テレビで何話してんだよ。ってか髪まだ濡れてるじゃねぇか。こっちこいよ」
その言葉に従い凛の膝の上にちょこんと座る。
首に掛けていたタオルを手に取ると、凛は優しく結の髪を拭き始めた。
「だって凛、最近人気者だからさ……牽制してるの」
「誰に対して?」
「凛のことかっこいいって思ってる女の子全員」
「なんだそれ」
それなら俺はお前のことを可愛いと思ってる男全員を牽制しなきゃならないだろ。
と言おうとしたが、止めた。
その必要性を感じなかった。
「…んなこと必要ねぇってわかってるだろ」
「うん、知ってる。凛は私にしか興味ないもんね?」
「結もだろ」
ふふふ。と、嬉しそうな声が漏れた唇をゆっくりとなぞる。
「くすぐったいよ、凛」
「お前、明日は?仕事?」
「午後から雑誌の撮影。だから午前は講義受けるよ。一緒に大学行こ?」
「おう。じゃあギリギリまで寝てられるな」
不敵な笑みを見せる凛の頬を抓る。
「雑誌の撮影あるって言ったでしょ?何する気?」
「結が、して欲しいと思ってること」
「…痕はつけちゃだめだよ?」
「ああ」
何を考えているかなんて、お互い手に取るように分かる。変な駆け引きは無用。
バスタオルが床に落ちるのも気にせず、凛は結の華奢な身体を抱きかかえ、そのままベッドルームへと向かう。
その先で何が起こるのかは、二人だけの秘密。
2014/8/30