番外 memories of the past
「ハ?ゆき、海常に進学すんのかよ。なんで?」


「なんでって、偏差値的にも場所的にも都合が良いから」


「あー…お前んち神奈川寄りだったっけ」



黄瀬が行くからか?

という言葉を飲み込み、青峰はつまらなそうに大きなあくびをした。



「で、海常でもマネやんの?」


「うん。さつきと試合できるの楽しみ」


「お前らが試合するわけじゃねーだろ」


「そうなんだけどさあ、気持ちは選手と一緒のつもりで、私もさつきもこの三年間みんなと一緒にいたよ?」


(んなこたー知ってるよ。だからお前らは俺ら以上に苦しんでたんじゃねーか。……そんな必要もねえのに)


「ちょっと、なんで黙っちゃうの?恥ずかしいじゃん…!」


「別に……いーんじゃね?ま、頑張れよ」



一見適当そうにも聞こえるが、これが青峰なりの気の遣い方だと知っているゆきは微笑み、ゆっくりと頷く。



「海常が最強のチームになるように精一杯サポートしていくつもり。大輝がこうやって屋上でサボってる暇なんてなくなるくらい強いチームになるから、覚悟してて?」


「おー、期待しねえで待ってる」


「…涼太はもっと良い選手になるよ。大輝だってだらけてたら足元すくわれるくらい、ね」



風が吹き抜け、ゆきの髪がなびく。
その光景に青峰は思わず息を飲んだ。
大人びた表情が、彼の知ってるゆきでは無いような気がした。



「たく……女ってのはこえーな」


「ん、何か言った?」


「なんでもねえよ。ほら、さっさと教室戻れ。犬が迎えにきたぞ」



犬?、とゆきが首を傾げた瞬間、勢い良く屋上のドアが開いた。



「あ、ゆきっちいた!もお、探したっスよ!授業始まっちゃうよ?って……青峰っち……」


「あー…うるせぇな、早く行け。俺はもうちょい寝る」



背を向けて寝転がった青峰の姿に呆れた黄瀬は、ゆきの手を引くように屋上を出ようとするが、ゆきは振り返り青峰の背中を見つめた。



「大輝、」


「ん」



青峰は振り返ることなく、ひらひらと軽く手を挙げ、屋上のドアが閉じるのを待った。

彼女が青峰を心配して、今日もわざわざ寒空の中、屋上を訪れていたことには気付いていた。
彼女は自分が何か言ったところで青峰の憂いを晴らすことはできないと分かってており、核心に迫ったことは言わない。
その距離感が心地良いことは事実だが、その一方で、彼女が自分に一歩踏み込んでこないことにほんの少しイラついていた。
そんな自分に気付き、青峰は「ハ、」と自嘲気に声を漏らす。



「あー、ほんとバカだよなァ」



あいつも、お前も、俺も。




***




「ゆきっち、青峰っちと何話してたの?」


「私が海常に進学するって話」


「ふーん。……青峰っち驚いてた?」


「?なんで?」


「桃っちは桐皇行くし、ゆきっちも一緒だと思ってたんじゃないかなーって」



きっと青峰っちは、ゆきっちが桐皇に進学すると思っていたはず。
でも残念、ゆきっちは俺を追いかけてきてくれる。

そんなちょっとした優越感のようなものを感じていた。

青峰っちに憧れてバスケを始めた。
楽しくて楽しくて仕方なかったのに、いつの間にかつまらなくなってきて。
でもどうしてもバスケで青峰っちを超えることはできなかった。
それでも、皆の愛するマネージャーが自分と同じ高校に進学することになり、超人みたいなチームメイトたちの中から自分を選んでもらえたようなそんな気がした。
家から通いやすい場所だとか、偏差値がちょうど良かったとか、本当はそんな理由だとしてもどうでも良い。
彼女を独り占めできるのだから。

「桐皇はただでさえ強豪なのに、大輝とさつきと私がいたらつまらないことになるでしょ。次は敵としてさつきとコートで会うのも楽しいかなってずっと考えてたし、大輝も分かってたと思うよ」


「そうかなー」


「……海常は、桐皇に絶対勝つ。もちろん、他のどの学校にも負けない。それで、またみんなー…」


「…みんな?」


ゆきっちが何を言いたいのか気付いていた。
彼女にとってキセキの世代がどんな存在なのか、ずっと近くで見ていたから。
二人で同じ高校に進学しても、彼女はずっと"帝光のマネージャー"のままなのだろうか。
そう思うとなんだか悔しくて、少しだけ意地悪をしたくなった。



「ううん…なんでもない。とにかく私は涼太が…海常が、全国を勝ち抜くまで全力でサポートするから、これからもよろしくね」


「こちらこそ、よろしくっス」

(この時に素直になれていたら、未来は変わっていたのだろうか)

2018/06/06



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