メモリィ・タイムリープ 06
インターハイ準々決勝。
あの日、俺たち海常は桐皇に負けた。
バスケ部での思い出は数多くあるが、あの日の悔しさは今でも忘れられない。
試合に負けた悔しさ。自分の力不足。でも、確かに感じたバスケの楽しさ。
もっと強くなりたいという気持ち。誰にも負けたくないという闘志。
先輩たちの想い。チームで勝ちたいという信頼。

あの日、俺の中で確実に何かが変わった。

負けて良かったとは言わない。でも、負けたから得られたものもたくさんあった。
でも、もしあの日をもう一度やり直せたなら、絶対に勝ちたいと思った。

そして今、あの日をもう一度やり直そうとしている。

勝ちたい。
勝って、ここから運命を変える。

キセキの歯車を噛み合わせるためには、青峰っちが心からバスケを楽しんでいたあの頃の気持ちを思い出させることが必要不可欠。
青峰っちが全力を出さなきゃ倒せないような強敵。
俺だって青峰っちの気持ちに何かしら影響を与えられたと信じたいけれど、やっぱり青峰っちにとっての最大のライバルは火神っちだった。
孤独にキセキの世代を見守っていたゆきっちにとっても火神っちは光だったのだろう。
火神っちのことは好きだ。感謝もしている。きっとゆきっちのことも幸せにしてくれる。

分かってる。分かっているけど、ゆきっちは俺の横で微笑んでいてほしい。俺に、幸せにさせてほしい。

だから、その一歩として、今日は絶対に勝たなければならない。

***

「あれ?ゆきっちは?」

「桐皇のマネージャーに挨拶してくるって言ってたぞ」

「……俺もアップがてらちょっと行って来てもいいっスか?」

「坂崎見つけたらすぐ戻ってこいよ」

「っス!」

この日、俺たちの試合を誠凜も見に来ていた。
4月の練習試合で火神っちとゆきっちが出会ってから、3ヶ月ちょっと。
それまでにどれだけ2人が仲良くなっていたかは知らないが、少なくとも個人的に連絡は取っていたはずだ。
ばったり会場で出くわしたら、立ち話をする程度の関係だと思う。
俺のいないところで、2人が話していたらと思うと苦しい。
いくら今俺が頑張ったところで、ゴールは変わらないんじゃないかと不安になる。

ゆきっちのことになると全然余裕がなくなる、な。



***


※火神視点


「……坂崎?」

「わ、火神くん!」

海常のマネージャー、坂崎ゆき。
海常との練習試合の時に初めて会って、なんだかんだで連絡先を交換することになり、時々連絡を取り合ったり、黒子と3人でマジバでメシ食ったり。
おもしれーし、話してると楽しいし、なんつーか、・・・・・・可愛いと思う。
キセキの世代のことを誰よりも気にかけてて、でも自分では何も出来ないと悩んでて。
ちょっと気になる奴というか、ほっとけないっつーか。
今日の試合を見に行くことになった時、青峰と黄瀬の試合を観たい気持ちと、坂崎にも会えるかもしれないというちょっとした期待があった。
試合の時のマネージャーは色々仕事があって忙しいし、直接会って話せるとは思っていなかったけど。

「見に来てたんだ!あれ、一人?」

「こっちで合宿してたからよ。みんなはもう会場内で席取ってる。俺は飲み物の買出し」

「そっかあ。私はちょっと桐皇に挨拶してきて、控え室に戻るとこ」

坂崎は笑顔だが、どことなく緊張しているようにも見えた。
そりゃそーだよな。かつての仲間だった青峰と黄瀬が試合をする。
坂崎にとっては複雑な状況なはずだ。

「……頑張れよ」

「ありがとう。でも頑張るのは選手だよ!」

「いや、お前だってー……」

ちっこい頭に手を伸ばして撫でようとした瞬間、坂崎の頭に影がかかり、手首を掴まれた。

「火神っち。こんにちはっス」

「……黄瀬」

「ゆきっち、そろそろ時間っスよ。先輩たちが戻ってこいって」

「探しに来てくれたの?ありがとう」

「人が多くて危ないっスからね。ゆきっちは大切なうちのマネージャーなんだから。さ、戻るっスよ。……火神っち、俺絶対負けないっスから」

「火神くん、またね」

「お、おう」

『負けない』は、単純に今日の試合のことだろう。
でも、それ以外の感情をぶつけられた気がするのは気のせいか。

仲睦まじく2人並んで歩く姿を後ろから見ていると、チクリとした痛みが胸に走った。
今までにあまり感じたことが無い感覚で、思わずTシャツの胸の部分をギュっと握り締める。

「・・・?」

合宿の疲れが残っているのか?
そんなことを思いながら、なるべく2人の姿を視界に入れないようにしながら、体育館に戻った。

(早く、試合がしたい)

2018/06/05



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