メモリィ・タイムリープ 04
伝えようと思った言葉。
どうしても言えなかった言葉。
何度も心の中で繰り返したその言葉を、時間を越えて過去の君に伝えている。
君は数ある進学先の中で、俺のいる場所を選んだ。
きっと、そういうことだろうと思っていた。
この時の俺たちは確かに互いに思い合っていたはずだった。
自惚れ。慢心。
そんな余裕と、どんどん楽しくなっていくバスケ。
自分のことに夢中になって、気付いた時には君の隣にはー・・・
バスケが楽しくなったのは誰のおかげだった?
どんな状況でも、俺たちを見守ってくれていたのは誰だった?
君のおかげでまたバスケに夢中になれて。
そのせいで君を失った。
俺たちキセキの闘志に火をつけたのは、誰?
辛い時に君の支えになっていたのは、誰?
彼が現れてから、俺を取り巻く環境が変わった。
気付いた時には、君に気持ちを伝えることすらできなかった。
だから今度は伝えようと決めた言葉。
伝えられただけでも大きな進歩だったが、拒絶されるのはやっぱり辛い。
だが「付き合う」ことに対しての「ごめん」という答えであり、その気持ちに対する拒絶ではない。
俺は、ゆきっちの続きの言葉を待った。
「キセキのみんなが楽しそうにバスケをプレイしているところ、見てみたいの」
あのね、と言葉を慎重に選びながら、ぽつりと呟くようにゆきっちは言葉を紡ぎ始める。
「さつきは大輝の傍で、私は涼太の傍で・・・みんなが純粋にバスケを楽しめる日が来るまで見守ろうねって約束したの。勝手なこと言ってるってわかってるよ?でもね、コートの中には入れない私たちの、たった一つのワガママを許してほしいな。」
「ワガママだなんてっ・・・!そんなこと、そんなこと誰も思ってないっ・・・!みんな、桃っちやゆきっちがどんな気持ちでベンチにいたか、わかってたはずっスよ・・・!ただ、あの時は仕方がなかった・・・誰にもどうしようもなかった。自分たちの力を中学生の俺らにはコントロールすることができなかった・・・でも、これからは違う。きっと、ゆきっちたちが望む未来が来る。俺が、そうする」
震える肩に手を添え、潤んだ瞳を見つめる。
きっと俺も、泣きそうな顔をしているんだろうな。
16歳の女の子というのは、本来楽しい世界の中心にいるべき存在だ。
恋だって、遊びだって。やりたいことをやろうと思えばなんだってできる。
辛いことだって投げ出してしまえばいい。
それなのに、終わりの見えない暗いトンネルの中を手探りで進んでいく。
見返りがあるかなんて分からない。
不安に駆られながら、再び光が見えることを信じてただひたすら進んでいくしかなかったのだ。
どんなに強がっても、どんなに大丈夫なフリをしていても、辛くないわけがなかった。
どうしてあの頃の自分は、こんなにも弱りきっているこの子に気付けなかったのだろう。
別の男に取られたって、仕方ない。自業自得。
それでも今こうしてその事実に気付けたことに、きっと意味がある。
やり直すチャンスが与えられているのだとしたら、俺のやるべきことは決まっている。
「ゆきっちの気持ちはよく分かったっス。自分のことよりも、いつだって俺たちのことを考えてくれてる・・・俺は、そんなゆきっちが大好き」
「りょ、涼太」
この小さな存在が愛おしくて、優しく抱きしめた。
俺の体中に溢れるこの気持ちが少しでも伝わればいいなって。そんな思いを込めて。
「ゆきっちの夢は、俺が一緒に叶える。だからその日が来たら・・・もう一度、答え聞かせて?」
俺の傍でその瞬間を迎えたいと思ってくれていたことが分かっただけでも十分じゃないか。
どうして俺の傍にいることを選んだのか――その理由を聞くのは、君が夢を叶えた後でも遅くない。
(君の夢が叶うまで、俺のこの夢がどうか醒めませんように)
2017/9/1