メモリィ・タイムリープ 03
中身は24歳で、見た目は16歳の俺。

純粋無垢でひたむきに"キセキの世代"を見守っている、16歳のゆきっち。

ゆきっちにとっても、俺にとっても、この夏は大きく運命が動いた時だった。

その後、ゆきっちと火神っちが俺の知らないところで出会って、俺の知らないところでキセキの世代をいい方へ変えてくれて、俺の知らないうちに結婚していく。

なんの因果か、運命のいたずらか、俺はこの運命の夏をもう一度やり直すチャンスをもらえたらしい。

16歳からの8年間、俺がどれだけ後悔したか。
今のキミも、未来のキミも知らない。

本当は全部、話してしまいたかった。

でも話してしまったら、この奇跡のような夏が夢で終わってしまいそうで、俺は"16歳の黄瀬涼太"として過ごそう、そう決めた。


「ゆきっちのことが好きだからっスよ」


そう真っ直ぐ伝えた俺の言葉を聞いたゆきっちは大きく目を見開き、口に手を当てた。

何かを言おうとして、何度もためらう様子がもどかしい。

自惚れかもしれないけど、帝光中の頃から俺に好意を寄せてくれているのだと思っていた。

彼女の成績ならキセキの世代、一人一人が行ったどの高校にも進学できるはずだった。

でも、海常にきた。

それはきっとーー…

16歳の俺はそんな淡い期待を抱いていたからこそ、振り返った時に彼女が俺の後ろにはもういなくて、火神と一緒に俺の前を進んでいたことに気付き、死にそうなほど悔やんだ。

悔やんで、悔やんで、二人が結婚すると聞いてからも諦めきれなかったのだ。

だから、今、俺がゆきっちをつかまえるんだ。
そうしたらもう二度と離したりしない。
キミがくれた安心感に甘えたりしない。

だから、お願い。
俺の手を掴んでーー…


「…どうしたの?涼太。そういう冗談、私は嫌いだよ」


感情を押し殺した声でやっと喋ったゆきっちは何故か泣きそうな顔をしていた。


「冗談なんかじゃないっスよ。…冗談なワケないじゃないっスか!!!!!」


ゆきっちの手首を掴み、ぐっと顔を寄せた。


「これが、冗談に見えるんスか?ゆきっちは俺のことずっと見ててくれたじゃないっスか、なのに…それなのにっ…!!!」


ゆきっちは火神とーー…
その言葉を続けることができなかった。


「涼太…、っ…どうして泣いてるの」


俺は気付かないうちにポロポロと涙を流していた。
ゆきっちは俺に掴まれていない方の手で、俺の涙を拭ってくれた。
ひどく優しい、温かい手で。


「お、俺…は、……っ…ゆきっちのことが本当に好きなんス…よ…」


本格的に涙が止まらなくなって、俺はその場に崩れ落ちた。

ゆきっちは小さな身体で俺のことを一生懸命抱きかかえて、落ち着かせるように背中を優しく撫でてくれた。

何しているんだ、俺。
24歳のいい年をした男が、16歳の女の子に慰められている。

その姿を客観的に想像して余計に辛くなった。


「…涼太の言う好きは、…その……そういう意味…なの?」


耳元で聞こえるゆきっちの声が少し震えていて、それがどんな気持ちなのか俺には推し測ることはできなかったが、きっとそう聞くことは彼女にとても勇気がいることだったのだと思う。


「一人の女性として、好きっス。これまでゆきっちが会った誰よりも、これからゆきっちが出会う誰よりも、ゆきっちのことが好きなんスよ」


唇と唇が触れ合いそうな距離で、はっきりとそう告げる。
ゆきっちの顔が一気に真っ赤になって、こんな可愛い姿をまさか見れるとは思えなくて、喜びで、更に泣きそうになるのをぐっと堪えた。


「な、なんでそんなこと涼太が分かるの…」


「今までの俺って、ゆきっちにとってはすごく軽い男に見えてたと思う。でもこれって、辛いことから逃げたくて、そんな気持ちをぶつけたくて、でも大事なゆきっちにそんな感情をぶつけたくなくて…それで、向き合えなくて……そんな自分が情けなくて許せなくて、だからもう間違えたくないんス。しっかりゆきっちと向き合って、俺がキミを幸せにしたい」


「…あなたは…涼太……なの…?」


「これが俺、黄瀬涼太の本当の気持ちっス」



呆気に取られたような様子のゆきっちは、俺の目の前にしゃがみ込んだ。

やっぱり唇と唇が触れそうな距離。
でも、それ以上は縮まらない距離。


「ありがとう、涼太。私も涼太が好きだよ」


「ゆきっちー…っ!」



何度も何度も夢で見た光景が、そこにはあった。
感動のあまり抱きつこうとする俺の胸を、ゆきっちは両手でそっと押した。



「でもね、今の私は涼太と付き合えない。ごめんね」



なんで断るゆきっちが泣きそうな顔をしてるんスか。
俺はどうしたらいいんスか。

(ねえ、誰か俺に教えてよ)

2015/8/22



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