I hope my loving time will last forever
身体に重みとぬくもりを感じて目が覚めた。
お腹に視線を向けると、涼太の腕が腰に巻きついている。
まだ寝息を立てている涼太を起こさないようにゆっくりと寝返りを打つ。
涼太は穏やかな表情で安心したように眠っている。
いつもの朝の風景だ。
朝起きると、必ず涼太は私を抱きしめている。
涼太いわく、「これまでのこと全部夢だったんじゃないかって不安になるんスよ。だから、眠っている間はゆきのぬくもりを感じてないと心配で眠れない」らしい。
結婚してから涼太は「夢から覚めなくない」とよく言うようになった。
私と結婚したのが、「夢のよう」だと。
私は、自分の気持ちを自覚したのは高校生の頃だけれど、中学生の頃からずっと涼太のことが好きだった。初恋だった。
もう出会ってから10年以上が経ち、そのほとんどの時間を一緒に過ごしていたというのに、何がそんなに不安なのか私には分からない。
ちょっと意地悪をして涼太の腕から抜け出そうとすると、その長い腕が私のぬくもりを無意識に追う。
そして、私を再び捕まえられないとすぐに目を覚ますのだ。
ほら、こんな風に。
「・・・ゆきっち・・・?あ・・・よかった、いた・・・」
結婚してからは滅多に使わなくなくなった『ゆきっち』という呼び方が出るということは、まだ半分夢の中にいるのだと思う。
「まだ6時だよ。もう少し寝る?」
「ん・・・ゆきっちも一緒に・・・」
優しく、腕の中に抱きこまれる。
胸板に頬をくっつければ、規則正しい心音が聞こえてくる。
匂い。音。体温。
まるで自分の半身であるかのように、全てが心地良い。
「・・・ねえ涼太。もし今と違う人生があったとしたら、涼太は何をしていると思う?」
涼太がいない人生なんて考えられない。
だからこそ、ふと違う人生のことを想像する。
「何度でもやり直して、ゆきっちを幸せにするっスよ」
「私を?涼太の幸せは?」
「ゆきっちを自分の手で幸せにすることが、俺の幸せ」
ふわっと幸せそうに笑うから、その前に一瞬見せた切なげな表情を見逃してしまいそうになる。
「他の奴の隣にいるゆきっちはもう見たくないっス」
もう、という言葉に違和感を覚える。
「もうって、どういう」
唇を塞がれ、全て言うことは出来なかった。
「あー、完全に目が覚めた」
「んっ・・・」
唇から首筋、パジャマのボタンを器用に片手で外され胸元へと、柔らかい唇が移動する。
「待って、涼太・・・こんな時間から、」
「こんな時間から?」
「ひゃうっ」
胸の頂を指でぴんと弾かれ、甲高い声が出る。
思わず手で口を塞ぐと、その手の甲にちゅ、ちゅ、とキスをされた。
「嫌?」
にっこりと笑うその表情は、「嫌じゃないっスよね?」と言っているようで、悔しい。
「・・・嫌じゃない、です」
「もう〜〜〜!!!俺の奥さんほんと可愛くてどうにかなっちゃいそうっス!」
「いたっ」
がばっと抱きしめられ、鼻を涼太の胸板に思いっきりぶつけた。
「あ、ごめん」
そのままかぷっと鼻を齧られる。
「・・・悪いと思ってないでしょ?」
「ばれたっスか?」
「涼太って本当に、私のこと好きだよね」
「大好きっスよ。好き。ほんと好き。愛してる。全部が愛おしい」
「・・・・・・」
「照れた?」
いつ言われても、何度言われても、嬉しい。
そういう言葉を惜しみなく与えてくれる涼太が大好きだし、私もその気持ちを伝えたいと思う。
でもやっぱり言葉にするのは恥ずかしいから、涼太の身体をぎゅっと抱きしめ、逞しい胸板に頬を寄せる。
「ゆきっちも、俺のこと本当に大好きっスよね」
そして涼太は、「夢ならば、覚めないで」と呟くように言った。
「・・・これが夢だとしても。目が覚めたら涼太の隣にはきっと私がいるから大丈夫だよ」
私がそう言うと一瞬息を呑み、今までに見たどの涼太よりも、幸せそうに微笑んだ。
2018/07/04