メモリィ・タイムリープ 12
「・・・太」
優しい、声がする。
「涼太」
大好きな声が、俺を呼ぶ。
「ねえ、起きて」
ゆっくりと目を開けると、目の前で微笑むゆきっちが視界に入った。
「おはよう、涼太」
美しく微笑むゆきっちにつられて俺も顔が緩むが、どこか違和感があった。
「昨日も遅くまで仕事だったもんね・・・本当はもうちょっと寝かせてあげたいんだけど、そろそろ時間みたい」
突っ伏していたテーブルから身体を起こすと、ゆきっちの全身が目に映る。
ウエディングドレスを身に纏った、美しいゆきっちが。
「・・・ゆきっち、そのドレス・・・」
「涼太が寝てる間に、メイクも全部終わってドレスも着たの。今何時か知ってる?式の20分前だよ?」
「・・・よかった・・・俺、ほんとに、」
「・・・涼太?寝ぼけてる?・・・・・・泣いてるの?」
「ゆきっち、とっても綺麗っス・・・」
「ありがとう。涼太も、とってもかっこいいよ」
「・・・ぎゅってしていい?」
「・・・うん」
高校生の頃よりも、成熟して柔らかい身体。
大人びた顔。
俺が知ってる、24歳のゆきっち。
最後に見た24歳のゆきっちが身に纏っていたのとは、違うデザインのウエディングドレス。
隣にいるのは他の誰でもなく、俺。
ああ、俺、ちゃんと掴み取れたんだ。
運命を、変えることが出来たんだ。
「行こうか、ゆきっち」
***
「黄瀬くん、ゆきさん、ご結婚おめでとうございます」
黒子っちの声に、意識が引き戻される。
隣に目を向ければ純白のウエディングドレスを着て、幸せそうに微笑むゆきっち。
ずっと見つめていたいほど綺麗で、実際にずっと見つめていたら、「みんなの方をちゃんと見て」と、しかられてしまった。
「みんな、ありがとっス」
フラワーシャワーと祝福の言葉を浴びながら、かつての仲間たちが作る道をゆっくりと進む。
「ゆき、幸せになれよ」
「とても、綺麗なのだよ」
「ドレス、すげえ似合ってる」
「黄瀬ちんもタキシードうざいほど似合ってるしー」
「ああ、2人共とても似合ってる」
「きーちゃん、ゆきちゃん、結婚おめでとう」
みんな、心から祝福してくれているのが分かる。
ゆきっち、愛されてるなあ。
そんなゆきっちが、俺を選んでくれた。
「ねえ、ゆきっち。今、幸せ?」
「世界で一番、幸せだよ」
その一言で、全てが報われる。
「涼太は?」
「宇宙で一番、幸せ」
でも、これでハッピーエンドじゃない。
今ようやくスタート地点。
ゆきっちを幸せにするための物語は、ここから始まる。
(俺の人生をかけて、キミを幸せにすると誓う)
2018/6/27