ぶくぶく。
人工的な青い水に沈んでゆく。
わたしの肺の中にあったはずの空気が泡となって水面へと上がる。
霞む視界の中で、その光景はとても美しかった。
苦しいはずなのに、なんだか気持ち良いかもしれない。
ほんとはわたしも泡のように消えてしまいたいのに。
君はそれを許してはくれなかった。
ほら、たくましい腕が伸びて、わたしの身体をしっかりと抱きかかえ、しなやかなバネで水面へと誘う。
「っ…ごぼッ……ごほっ、…はぁ…ッ…は、…あ…」
水を含んでぐっしょりと重く張り付く制服が、頬に張り付く髪が、鬱陶しいのにそれを払う力もなく、真琴に引っ張り上げられた身体はそのまま彼の厚い胸板に押し付けられた。
「っ、なにしてんのっ!!!!!」
「ま…こ……と…」
「泳げないのに、なんでっ、こんな、ッ…」
いつも穏やかな真琴の表情は固く、わたしは彼の眉間に寄った皺にそっと手を伸ばした。
「…どうしてそんな顔するの……?」
「どうしてって…それはこっちのセリフだよ…!」
わたしの手を取り、ぎゅっと握る力は強く、とてもあたたかい。
「わかんない…わかんないけど、なんだか全部どうでもよくなっちゃって。泡になって消えたらいいのに、って、思ったの」
水は、綺麗だ。
こんなに醜いわたしの全てを無に還してくれる。
でも、真琴はどんなわたしもそのまま全部、このあたたかい心で受け止めてくれる。あたたかい腕で抱きとめてくれる。
自分の脚で立って、自分の声で喋り、わたしはいつでもあなたの側に寄り添える。泡になって消える必要なんてどこにあったんだろう?ああ、なんて馬鹿なことをしてしまったんだろう。
でも、こうやって本気で心配してくれるあなたを見ていると、どうしようもないくらい満たされるの。ごめんなさい。わたし、あなたのことがとても好きみたい。
「もう二度とこんなことしないで…俺がずっと側にいるから。不安なことがあったらすぐに言って。………お願いだから」
「ありがとう、真琴。……わたし、真琴が側にいてくれればもう大丈夫、だよ」
どこかのおとぎ話のように悲しいまま終わるのは嫌だから、ずっとわたしを離さないでね。
(わたしは、人魚姫にはなれなかったみたい)
2014/7/21